市町村ならびに個人の社会経済状況と疾患別死亡リスクとの関連

本庄かおり


 社会経済的状況と健康に関連があることが多くの国から報告されています。特に欧米では個人の社会経済状況ならびに居住近隣地域の社会経済状況が、死亡や循環疾患罹患をはじめとする様々な健康リスクと関連があることが報告されています。しかし、市町村レベルの社会経済状況がそこに居住する人々の健康にどのような影響があるかについての検討は少なく、特にアジア地域においてはありませんでした。


 本研究では1988~1990年にアンケートにより集められた情報を元に平均約15年間の追跡調査行った結果、個人ならびに市町村の社会経済状況が個人の疾患別死亡リスクに影響することを把握し、これを専門誌に発表いたしましたので報告します。(Int.J. Behav. Med. 21巻737-749頁 2013年)

【図1】個人ならびに市町村の社会経済状況と死亡リスクの関連


社会経済状況が悪い人の死亡リスクは高い


 個人の社会経済状況を示す指標として教育歴と職業を用い、個人の社会経済状況と死亡リスクの間に関連が見られるかを居住する市町村の社会経済状況を考慮した上で検討しました。その結果、男女ともに教育歴が低いほど死亡リスクが高い傾向がみられました。 また、男性ではホワイトカラー労働者に対して、ブルーカラー労働者、その他の職業、無職者の死亡リスクが高い傾向がみられ、女性では無職者のみで死亡リスクの上昇がみられました。


社会経済状況が悪い市町村に居住する人の死亡リスクは高い


 市町村の社会経済状況の指標として、その市町村に住む方々全体の大学卒業者の割合、一人当たりの課税所得、完全失業率、生活保護受給世帯割合を用い、個人の社会経済状況を調整した上で総死亡ならびに疾患別死亡リスクとの関連を検討しました。男性では、大学卒業者の割合と完全失業率が循環器死亡リスクと関連があることが示されました。女性では、大学卒業者の割合ならびに一人当たりの課税所得と外傷による死亡リスクとの関連が見られました。いずれも、社会経済状況が悪い市町村に居住することにより、個人の社会経済状況とはかかわらず死亡リスクが高い傾向がみられました。また、個人の社会経済状況により居住市町村の社会経済状況の影響が異なる傾向もみられました。


なぜ市町村の社会経済状況が居住者の死亡リスクに影響を与えるのか


 市町村の社会経済状況が居住者の死亡リスクに影響を与える理由としては、市町村が有する住民健康増進に対する資源(たとえば健康増進のための施設や医療機関)が市町村の経済状況により異なることが考えられます。居住地域により資源へのアクセスが異なり、その結果、居住者の健康行動や健康リスクに影響をあたえている可能性が考えられます。


社会政策への寄与


 多くの疾患の死亡率・罹患率が社会経済状況と関連することはよく知られており、近年、社会経済状況による健康格差は公衆衛生政策上の重要な課題として重視されています。本研究の結果から、日本においても、個人の社会経済状況だけでなく、居住する市町村の社会経済状況もそこに住む個人の死亡リスクに関連する可能性が示唆されました。今後、健康格差を考え縮小していくためには、個人に加えて居住地域の社会経済状況も考慮する必要があると考えられます。

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