麻疹およびムンプス(おたふくかぜ、流行性耳下腺炎)感染症と循環器疾患死亡との関係

久保田康彦


 幼少期に感染症に数多く罹患したことがある人は、ない人に比べて動脈硬化の進行を抑制できるかもしれないことが、欧米の研究で報告されていました。これは「衛生仮説」と呼ばれる仮説によりメカニズムが説明されます。衛生仮説とは、衛生環境が改善されるにつれ感染症が減少し、その結果幼少期に免疫の発達に必要な感染の機会がなくなり、「制御性T細胞」と呼ばれる免疫機能のバランスを保つ細胞の働きが弱くなる、とされる仮説です。動脈硬化は炎症により進展しますが、この制御性T細胞の活性が弱くなると炎症を制御できなくなり動脈硬化を抑制できなくなると考えられています。


 そこで、本研究では、幼少期の代表的な感染症である、麻疹とおたふくかぜの罹患の有無と心筋梗塞や脳卒中などの循環器疾患死亡との間にどのような関係があるのかを分析し、専門誌に発表しました(Atherosclerosis誌 2015;241:682-6掲載)。


麻疹またはおたふくかぜ感染歴があると、循環器疾患で死亡するリスクが低い


 アンケートで、麻疹またはおたふくかぜに感染したことがあるかという質問に回答された約10万3千人の方々を、「麻疹、おたふくかぜとも感染歴なし」、「麻疹のみあり」、「おたふくかぜのみあり」、「麻疹、おたふくかぜ両方あり」の4グループに分けて、その後の約20年間に循環器疾患で亡くなった人の割合を比べました。


 その結果、下図のように感染歴がない人に比べて、麻疹またはおたふくかぜの感染歴がある人の死亡リスクは低くなり、1種類よりも両方の感染歴があったほうがさらにリスクが低下することがわかりました。


この研究の意義


 本研究より幼少期の感染症(麻疹、おたふくかぜ)が循環器疾患の死亡リスクを低下させる可能性が示唆されました。麻疹、おたふくかぜ以外の幼少期特有の感染症で同様の結果が得られるかは現在のところ不明です。


 麻疹やおたふくかぜにより重篤な後遺症や死亡が起こる可能性があります。したがって、本研究の結果を、循環器疾患予防のためにこれらの感染症に罹患した方がいいと解釈すべきではありません。本研究より循環器疾患と免疫系の関連が再確認され、新たな治療法のきっかけになればと考えております。

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