排便回数および下剤の使用と循環器疾患死亡との関係

久保田康彦


 腸内細菌叢の乱れが動脈硬化と関連があることが近年の研究でわかってきました。便秘は最もよく遭遇する消化器障害の一つですが、腸内細菌叢の乱れとの関連が指摘されています。したがって、便秘と循環器疾患(主に動脈硬化による心筋梗塞や脳卒中)も関連があるかもしれません。欧米の女性を対象とした研究で、便秘と循環器疾患の関係を検討されましたが、その研究では、便秘であることは循環器疾患の危険因子であるというよりは、その危険因子(ストレスや不健康な食事など)に曝露されていることを示すマーカーであるという結論でした。これまで、男性およびアジア人に関しての報告がなかったので、本研究では、日本人の男女を対象とし、便秘が循環器疾患とどのような関係があるのかを検討し、専門誌に発表しました(Journal of Epidemiology誌 2016;26:682-6掲載)。


排便回数が少ない人、下剤を使用している人ほど循環器疾患の危険因子を持っている


 この調査では、便秘を排便回数と下剤の使用により定義しました。アンケートで、一週間あたりの排便回数および下剤の使用の有無に関する質問に回答された約7万人の方々を、(1)「毎日排便あり」、「2-3日に一度排便あり」、「4日以上で排便あり」の3グループと、(2)「下剤の使用なし」と「下剤の使用あり」の2グループに分けて、参加者の特徴を調べました。調査開始時の参加者の特徴として、一週間当たりの排便回数が少ない人ほど、また、下剤を使用している人ほど、男女共循環器疾患の危険因子(糖尿病、ストレス、抑うつ気分、運動不足など)を持っている人が多い傾向にありました。


排便回数は循環器疾患と関連がなかったが、下剤の使用は関連があった


 さらに、その後の約20年間に循環器疾患で亡くなった人の割合を比べました。排便回数と循環器疾患の死亡リスクに有意な関連は見られませんでしたが、下剤を使用している人は、男女共、使用していない人に比べてリスクが上昇していました(図)。


この研究の意義


 本研究より、(1)便秘である人は循環器疾患の危険因子を多く持っていること、(2)下剤の使用は循環器疾患の死亡リスクの上昇と関連があることがわかりました。過去の研究が示唆したように、便秘であることは循環器疾患の危険因子を持っているサインであるのかもしれません。一方で今回見られた下剤と循環器疾患との関係の解釈には注意が必要です。下剤は、脱水、腸内細菌の異常増殖、セロトニン分泌促進を起こすことで、心筋梗塞や脳卒中のリスクを高める可能性が考えられますが、同時に、下剤の使用は自律神経障害のマーカーである可能性も考えられます。自律神経障害により便秘が起こりますが、循環器疾患のリスクも高まることも知られています。したがって、本研究の結果は、下剤の使用が実際に循環器疾患のリスクを上げるかどうかを結論づけるものではありません。これに関しては、今後の研究により明らかにされる必要があり、現時点では、下剤の使用を控えるべきかどうかは不明です。

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