虚血性心疾患及び脳卒中死亡の危険因子の比較

松永眞章


 高血圧、糖尿病、肥満、喫煙、アルコール過剰摂取、低身体活動等が、循環器疾患のリスクを高めることはよく知られています。しかし、これらの危険因子が、循環器疾患を構成する虚血性心疾患と脳卒中のそれぞれの病型について同じように関連するかは不明です。

 そこで今回、JACC研究において、これらの危険因子が虚血性心疾患及び脳卒中の死亡とどのように関連するのか、さらにそれら危険因子に対する対策の公衆衛生学的インパクトの大きさについて、詳細な解析を実施し、専門誌に発表しましたので、ご紹介いたします(Atherosclerosis 2017年;261巻:124-130ページ掲載)。


各危険因子の虚血性心疾患と脳卒中との関連


 例えば、高血圧は循環器疾患の危険因子として知られていますが、高齢な方ほど循環器疾患で死亡しやすく、また高齢になると高血圧の割合も増えます。このように、高血圧と循環器疾患の関連性は、年齢によって見かけ上あるように見えるだけかもしれません。年齢のように、高血圧と循環器疾患の関連を実際より強く見せたり、逆に見えにくくする要因を交絡因子と呼びます。今回の検討では、交絡因子を統計学的な方法を使って制御しました。また、危険因子同士も互いに関連しているため、年齢とすべての危険因子を同時に統計モデルに含めた多変量調整ハザードモデル解析を実施し、各危険因子と虚血性心疾患及び脳卒中死亡との関連を検討しました。関連性の強さはハザード比で表し、その値(絶対値)が大きいほど強い関連であるとともに、値の符号が正の場合はリスクを高める要因、負の場合はリスクを低める予防的要因であると判断しました。

 その結果、虚血性心疾患及び脳卒中の両者に類似した関連性を示した危険因子は高血圧でした。すなわち、高血圧のある方はない方に比べ、男性で 1.63倍、女性で 1.70倍虚血性心疾患で死亡するリスクが高く、さらに脳卒中についても男性 で1.73倍、女性で 1.66倍、死亡するリスクが高いという結果でした(図1)。


図1 高血圧と虚血性心疾患及び卒中死亡との関連
 いずれも高血圧がないものを基準にしたリスクの大きさである。バーは95%信頼区間を示す。


 一方、虚血性心疾患と脳卒中に対して異なる関連性を示した危険因子は喫煙と糖尿病でした。喫煙は、虚血性心疾患には、男性 1.95倍、女性 2.45倍と強い関連性を有したのに対して、脳卒中との関連は男性で 1.23倍、女性で 1.35倍のみでした(図2)。また、糖尿病は、虚血性心疾患とは、男性で 1.49倍、女性で 2.08倍の関連を有したのに対して、脳卒中については男性で 1.09倍、女性で 1.39倍でした(図3)。


図2 喫煙と虚血性心疾患及び卒中死亡との関連
 いずれも非喫煙者を基準にしたリスクの大きさである。男女とも、虚血性心疾患と現喫煙の関連性は、脳卒中と現喫煙の関連性より有意に強い。


図3 糖尿病と虚血性心疾患死亡または脳卒中死亡との関連
 いずれも糖尿病がないものを基準にしたリスクの大きさである。虚血性心疾患と糖尿病の関連性は、脳卒中と糖尿病の関連性より有意に強い。



各危険因子の虚血性心疾患と脳卒中についての人口寄与危険割合


 人口寄与危険割合は、危険因子を改善してなくすことができた場合に、どの程度疾患を減らすことができるかを示した割合のことで、集団に対する対策の効率を評価する際に有用な指標です。そこで、JACC研究において、虚血性心疾患と脳卒中のそれぞれについて、危険因子の人口寄与危険度割合を計算しました。その結果虚血性心疾患については、男性では喫煙、女性では高血圧の人口寄与危険割合が最も高値で、脳卒中については、男女ともに高血圧の人口寄与危険割合が最も高くなっていました(図4、5)。


図4 各危険因子の虚血性心疾患及び脳卒中死亡に対する人口寄与危割合(男性)


図5 各危険因子の虚血性心疾患及び脳卒中死亡に対する人口寄与危険割合(女性)



この研究のまとめ


 日本人を代表する集団と言えるJACC研究において、高血圧が虚血性心疾患と脳卒中の両者に共通した危険因子であり、かつ公衆衛生学的対策の有用性も大きいことがわかりました。一方、喫煙や糖尿病は、虚血性心疾患との関連が脳卒中との関連に比べ、やや強い傾向にあり、公衆衛生学的対策の効率性を示す人口寄与危険割合も性別によって異なるなどの特徴がありました。これらの結果は、循環器疾患の予防対策を立案するのに役立つと考えられます。

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