治療の有無別に見た血圧と循環器疾患死亡との関連

山岸良匡


  高血圧は、循環器疾患の最大の危険因子であり、一般集団では、血圧は低ければ低いほど循環器疾患のリスクが低く、高ければ高いほどリスクは高くなることが知られています。そして、血圧が高い人に対して血圧を下げた場合に循環器疾患のリスクが下がることも古くから知られていました。ただ、血圧をどのくらいまで下げるのがよいのかについては、長らく結論が得られていませんでした。特に、薬を使って血圧をかなり低く下げることの是非については、さまざまな議論がありました。
このような中で、米国では2017年に、高血圧の基準を従来の140/90 mmHgから、130/80 mmHgに引き下げる決定をしました。一方、欧州では2018年に、高血圧の基準は従来通り140/90 mmHgとする決定がなされました。日本では2019年4月に高血圧治療ガイドラインが改定され、血圧区分の一部と用語が変わりましたが、従来通り140/90 mmHgを高血圧の基準としています。
今回、実際に地域で生活する(リアルワールドでの)日本人の実態を明らかにするために、JACC研究において血圧と循環器疾患死亡との関連を分析すると共に、その関連が服薬の有無別にどのように異なるのかを分析しました。(Journal of Hypertension 2019 ;37(7):1366-1371.)


降圧薬を服用している場合、血圧が低い場合でも循環器疾患による死亡リスクが高い


  JACC研究の45地域のうち、血圧の実測データのある30地域の27,728人を対象としました。健診時の血圧値を、欧州の基準に基づき、至適血圧(120/80未満)、正常血圧(120-129/80-84)、正常高値(130-139/85-89)、I度高血圧(140-159/90-99)及びII-III度高血圧(160/100以上)の5つの群に分けました。循環器疾患の主なリスク要因を統計学的に調整した上で、正常高値群に対する他の群での循環器疾患の死亡リスクを算出しました。
 その結果、正常高値群と比較して、循環器疾患の死亡リスクは、至適血圧群で0.85倍(95%信頼区間0.69-1.04)、正常血圧群で0.96倍(同0.81–1.15)、I度高血圧群で1.26倍(同1.09–1.46)、II-III度高血圧群で1.55倍(同1.31–1.84)と、血圧が高くなるにつれてリスクが高くなることが明らかとなりました(図1)。この関連は、降圧薬を服用していない人だけで見た場合でも同様でした。一方、降圧薬を服用している人だけで見た場合は、この関連は、至適血圧群で2.31倍(同1.25–4.27)、正常血圧群で1.68倍(同1.05–2.69)、I度高血圧群で1.56倍(同1.10–2.22)、II-III度高血圧群で1.63倍(同1.13–2.36)と、U字型の関連を示しました(図2)。この関連は、脳卒中死亡や虚血性心疾患死亡でも同様であり、また男女別に見ても同様でした。









  地域で生活する一般住民を長期間追跡して、その後の病気の発症や死亡との関連を調べる研究をコホート研究といいます。一方、すでに病院などにかかっている患者に対し、特定の条件のもとで、ある薬を使うか使わないかで、その後の健康状態がどのようになるのかを調べる研究を介入研究といいます。JACC研究はコホート研究であり、血圧が低い人や下がっている人のその後を検討することはできます。しかし、血圧を下げたことによる効果は介入研究でなければ厳密な検討はできません。今回の研究では、薬を飲んで血圧が 129/84以下に下がっている人の中には、糖尿病や脂質異常などの併存するリスク要因があるため、全身の状態を医師が総合的に診た上で、意図的に血圧を強力に下げる治療を受けていた人が含まれています。また、心房細動や動脈硬化などが高血圧に合併すると、血圧が下がることがあります。したがって、今回の結果は、主に降圧薬によって血圧を下げることが原因で循環器疾患の死亡リスクが高くなることを示すものではなく、これらの併存するリスク要因や合併症が原因で、循環器疾患の死亡リスクが高くなったと解釈されます。実際にこれまでの特定の条件の下で行った介入研究の結果から、薬を飲んで血圧を下げることで、循環器疾患のリスクが下がることが証明されています。一方で今回の結果から、降圧薬を服用し、血圧が129/84 mmHg以下に下がっている人は、併存するリスク要因や合併症の管理に注意する必要があるといえます。
  血圧の薬を飲んでいて血圧が非常に下がっている場合でも、医師の指示なく、自己判断で血圧の薬をやめるのは危険です。上述の合併症などの影響を含めた全身状態について、主治医とよく相談することが大切です。

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