教育歴と胃がん死亡との関連

藤野善久


 社会経済的要因と胃がんとの関連は各国で報告されています。

 関連が見られる理由としては、社会経済的要因が環境要因や食生活、生活習慣などの違いと密接に関連し、それらが胃がんの発生・死亡に影響を与えているためと考えられています。


 本研究では、社会経済的要因の指標の一つである教育歴と胃がん死亡との間に関連があるかどうかを検討しました。また、これまでの研究では、胃がんと関連が強いと考えられている食生活を考慮に入れた検討は少ないため、 本研究では食生活も考慮して、教育歴と胃がん死亡との関連を解析しています。(Preventive Medicine 35巻121-127頁 2002年)


男性では低学歴群では胃がん死亡率が高い

 教育歴を、何歳まで学校に通ったかで3群にわけて胃がん死亡率を比較しました:低学歴群(15年歳以下)、中間群(16歳から18歳),高学歴群(19歳以上)。1949年以降、教育制度、義務教育以上の教育を受ける割合などが大きく変化しているため、本研究では1949年時点で18歳以上の人に限定して解析しています。男性の場合のは、低学歴群に比べると中間群では0.9倍、高学歴群では0.72倍と学歴が高くなるほど胃がん死亡リスクが低下しました。女性ではこのような差を認められませんでした。

【図1】教育歴と胃がん死亡との関連(年齢を調整)


食生活(緑黄色野菜、漬物、果物など)、喫煙、飲酒を考慮しても、 低学歴群では胃がん死亡率が高い

 胃がんと関連が強いと考えられている食生活および他の生活習慣を統計的に配慮しても、上記の関連はほぼ同様に認められました。

【図2】教育歴と胃がん死亡との関連(年齢,食生活,生活習慣を調整)


 社会経済的状況を表す指標として、従来から教育歴、職業、収入などが使われています。社会経済的状況と胃がん死亡との関連については、外国ではこれまでに多くの報告がなされていますが、本研究では、日本においても社会経済的状況と胃がん死亡との間に関連があることがわかりました。


 なぜ、社会経済的状況が胃がん死亡に関連するのかについては、社会経済的状況により生活習慣、特に食生活が違うためと考えられてきましたが、それにも関わらずこれまでに食生活を考慮して、社会経済的状況と胃がんとの関連を検討した研究は多くありませんでした。本研究により、食生活を考慮しても男性では社会経済的状況と胃がん死亡との間に関連が見られたことから、これまでに考えられてきたような食生活の違いだけでは、社会経済状況と胃がんとの関連が説明できないことが示されたことになります。


補足

 胃がんだけでなく多くの疾患の死亡率・罹患率が社会経済状況と関連することはよく知られています。社会経済階層によるこの健康格差(Health inequality)は公衆衛生政策上の重要な課題として近年重視されています。


 これら健康格差が生じる理由としては、社会経済階層により、
1) 生活習慣が違う、
2) 医療サービスへのアクセスの頻度・容易さなどが違う、
3) 環境曝露・職業性曝露などが違う、
4) 出生早期の栄養状態などを介る生体発育・酵素発現への影響
など、様々な仮説が提唱されており、これらの総合的な結果だと考えられています。


 本研究では、ここに挙げたもののうち生活習慣だけでは社会経済的要因による健康影響を説明できないことを示しています。

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