輸血歴と甲状腺がんとの関連

藤野善久


 甲状腺がんは比較的予後の良いがんですが、その原因はほとんどわかっていません。近年、C型肝炎ウイルス(HCV)感染が関連していることを示す症例対照研究(甲状腺がんの患者と健康人のC型肝炎ウイルス感染割合を比較する研究)がイタリアから報告されています。この関連が本当かどうかを確認するためにはコホート研究と呼ばれる追跡調査が有用ですが、 HCVの検査が開発されたのが1992年と比較的新しいため、長い期間を必要とするコホート研究では報告されていません。


 JACCスタディは1990年以前に開始されているためHCVの情報はありません。しかし1992年以前の輸血は国内のHCV感染の大きな原因と考えられるため、輸血歴と甲状腺がんの発生を検討することで HCVと甲状腺がんの関連を間接的に検討しました。その結果は専門誌に掲載されました(Int J Cancer 2004; 112: 722-725.)。公表されている研究成果へ


輸血を受けた人の甲状腺がん罹患リスクは1.8倍

 輸血歴があるかをアンケートでお尋ねしています。輸血を受けたことがある人の甲状腺がんの罹患の割合は、輸血をしたことがない人の1.8倍でしたが、その結果は統計的には有意ではありませんでした。


輸血歴かつ肝疾患既往がある人の甲状腺がん罹患リスクは1.8倍

 次に肝疾患既往があって、かつ輸血を受けたことがある人と、肝疾患・輸血両方ともない人とで、甲状腺がんの発生を比べると、 1.8倍であり、統計的にも有意な関連を示しました。JACCスタディにおいて輸血歴は甲状腺がん罹患リスクを高めていました。この理由として2つの仮説が考えられます。


 1つは「HCV感染が甲状腺がんの発生に関係している」という説です。 HCVと甲状腺がんとの関連は主にイタリアから報告されています。輸血は本邦においてHCVの主要な感染ルートであったことからも、輸血はHCVを介して甲状腺がんのリスクを高めているのではないかと考えられます。HCVは肝がんの強力なリスク要因ですが、それ以外に様々な自己免疫性疾患に関連していることが知られています。自己免疫性肝炎は慢性甲状腺炎によく合併し、自己免疫性甲状腺炎は甲状腺がんの前がん病変と考えられています。


 2番目の仮説は、「輸血関連性免疫抑制が関連している」という仮説です。輸血によって免疫抑制状態が起きることは、輸血患者のがんの再発が高いことなどから知られていました。したがって、輸血を受けることによって、体内の免疫が抑制された状態が生じ、そのために甲状腺がんが発生しやすくなったのではないという考え方です。例えば、HCV感染と関連が考えられる慢性甲状腺炎のがん化を、輸血関連性免疫抑制が促進している可能性が考えられます。


 本研究は、HCVの血清情報がないため仮説を提唱するに留まりましたが、甲状腺がんの原因の解明のためには、今後はHCVの血清情報を用いたコホート研究が行われることが期待されます。

copy_rihgt_JACC