教育歴と主要死因との関連 -日本における健康格差-

藤野善久


 社会経済状況(SES)と健康状態が密接に関連することが近年報告され注目を集めています。このような研究は、健康に影響を与える要因(環境・生活習慣など)を解明する試みと同時に、公衆衛生政策上の重要なキーになると考えられています。しかし国内においてこのような報告はあまりなされていません。本研究ではSESの指標の一つである教育歴を用いて国内におけるHealth inequality(健康格差)を検討しました。その結果は専門誌Preventive Medicine誌に掲載されました(Prev Med 2005; 40: 444-451.)。


低学歴の人の死亡リスクは1.2倍

 教育歴を、何歳まで学校に通ったかで3群にわけて死亡率を比較しました:低学歴群(15年歳以下)、中間群(16歳から18歳),高学歴群(19歳以上)です。 1949年以降に教育制度、義務教育以上の教育を受ける割合などが大きく変化したため、この研究では1949年時点で18歳以上の人に限定して解析しています。


 図は、高学歴群を基準としたときの死亡しやすさを計算した結果を示しています。男性において、低学歴群では、死亡、がん、脳血管障害、呼吸器、外因による死亡リスクが大きくなっていました。高学歴群と比べた場合の低学歴群の死亡リスクは、全死亡1.2倍、がん1.2倍、脳血管障害1.2倍、呼吸器疾患1.2倍、外因1.8倍でした。女性においても、全死亡1.2倍、脳血管障害1.2倍、外因1.8倍と同様の結果でした。

【図1】学歴と死亡リスク


喫煙、飲酒、仕事などの影響を除いても全死亡、がん、外因のリスクは大きかった

 死亡・疾病に関係する要因である喫煙、飲酒、仕事は教育歴によっても影響を受けます。しかし、その影響を統計的に調整しても、全死亡、がん、外因のリスクは大きくなっていました。高学歴群と比べた場合の低学歴群の死亡リスクは、男性も女性も全死亡1.1倍、がん1.2倍、外因1.8倍でした。しかし、図には示していませんが、男性の虚血性心疾患では低学歴群でわずかにリスクの低下を認めました(高学歴群の0.8倍)。

【図2】学歴と死亡リスク(関連要因調整後)


 本研究により日本でも、教育歴が多くの主要死因と関連することが示されました。SESと健康状態が関連する理由として
  1)materialistic model(収入、栄養状態、住居など)
  2)健康に関連する生活習慣、知識、文化的背景の違い
  3)心理学的機序
  4)胎児期・出生早期の影響、Bioprogramming theory
  5)Life-course model(過去の経験が将来の生活習慣、職業・収入レベル、衛生・健康に関する知識の獲得などに生涯にわたって影響している)
などの複合が考えられています。


 また特に外因死のリスク格差が大きかったことは、労働災害、交通事故、自殺、転倒・転落など政策的介入の重要性を示唆するものと思われます。一方、虚血性心疾患については海外での報告と異なる結果でした。これは、日本では高学歴者群で喫煙、肥満が多いことが影響していると考えられます。

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