婚姻状況と死亡リスクとの関連-JACC Studyの結果から-

池田愛


 日本では、離婚者、離別者の割合が過去30年の間に増加しており、それと同時に結婚率の低下も見られています。配偶者と共に暮らしているということは社会的つながりの一つとして大変重要な要素であり、欧米での研究では独居者(独身者、離婚者、離別者)は死亡リスクが高いとの報告がなされています。


 しかしながら、日本と欧米とでは社会システムが異なるため、独居者の増加による社会的つながりの希薄化が日本人の健康悪化につながりうるかについては、未解明のままで、独居者の増加が日本人の健康に与える影響を検討することは急務とされていました。


 そこで、婚姻状況がその後の死亡に与える影響について、文部科学省の助成する大規模コホート研究において、約10年間の追跡調査を行った結果をまとめ、専門誌に発表しました (BMC Public Health2007; 7: 73)。


婚姻状況と死亡リスク

 本研究では、研究開始時にアンケートで、婚姻状況(既婚、死別、離婚、独身)に関してお尋ねしています。その質問に回答した40-79歳の男女90,064人について、婚姻状況とその後の死亡との関連を分析しました。


 独身男性では、既婚男性と比べて、循環器疾患で3.1倍、呼吸器疾患で2.4倍、外因死で2.2倍、全死亡で1.9倍の死亡リスク上昇が認められました。独身女性では、既婚女性と比べて、全死亡で1.5倍の死亡リスクが認められました。また、死別・離別男性では、既婚男性と比べて、循環器疾患・外因死・全死亡でリスクの上昇を認めましたが、女性では同様の傾向は認められませんでした(図1・2)。


独身であることは男女ともに死亡リスクを上げる
離婚・死別は男性でのみ死亡リスクを上げる

 今回の分析結果では、独身者は男女ともに死亡率が高いこと、また、死別・離婚者では男性でのみ死亡率が高いことが認められました。このことは、独居(独身・離婚・離別)が、特に男性において、潜在的に健康への悪影響を及ぼすことを示しています。


 独居者は、配偶者のいる者と比べて、喫煙者の割合などが多いことが今回の研究では示されています。これらの独居による生活習慣の乱れが循環器疾患やがんの死亡率を上げる原因になることが考えられます。また、特に死別・離婚は心理的ストレスにつながる出来事であり、その影響が死亡率の上昇につながることも考えられます。このメカニズムについては未だ不明な部分も多く、今後の研究課題といえます。


なぜ、男性でのみ死別・離別による死亡率上昇が見られるのか?

 今回の分析結果は、欧米の先行研究と異なり、死別・離別の影響が男性でのみ認められました。このような男女差は欧米の研究では認められておらず、日本人特有の現象といえます。

 この男女差の原因としては、男性と比べて、女性では地域社会におけるつながりが比較的強く、独居による社会的つながりの希薄化の影響を受けにくい可能性が考えられます。実際、今回の研究では、社会的つながりの比較的強い高齢者と比べて、社会的つながりの弱い中年層で独居の影響が強く見られており、その他の社会的つながりが、独居による影響を緩和している可能性があります。


社会政策への寄与

 日本では、社会構造の変化により独身者の割合が急増しています。今回の研究結果は、この独身者の増加が、社会経済的な影響のみならず、死亡率上昇などの公衆衛生的な影響をも与えうることを示しました。今後、公衆衛生も含めた社会政策として、独居者に対する健康面からの支援が必要であると推察されます。

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