アルコール摂取量と循環器疾患死亡

池原賢代


 これまで男性を対象としてアルコール摂取量と循環器疾患との関連に関する研究が多く報告されてきましたが、男女別の検討を行った研究は少なく、とくにアジアにおける女性アルコール摂取量と脳卒中及び虚血性心疾患死亡との関連に関するエビデンスはほとんどありませんでした。今回、日本人におけるアルコール摂取量と脳卒中及び虚血性心疾患による死亡との関連を男女別に検討し、専門誌に発表しました(Stroke誌 2008;39:2936-2942掲載)。


多量飲酒は男女ともに循環器疾患の死亡リスクを増加させ、
少量~中等量の飲酒は循環器疾患の死亡リスクを低下させる

 男性では、飲まない人に比べて、全脳卒中の死亡リスクは1日2合飲酒で1.4倍、3合以上で1.7倍と増加しました。この全脳卒中死亡リスクの増加には、出血性脳卒中(脳内出血+くも膜下出血)死亡が大きく影響していました。逆に、虚血性心疾患の死亡リスクはアルコール摂取量と負の関連が認められました。


 脳卒中と虚血性心疾患を含む全循環器疾患の死亡リスクについては、非飲酒者に比べて、1日3合以上の飲酒者で 1.3倍の増加が認められました。一方で、2合未満の飲酒は、全循環器疾患の死亡リスクを低下させる方向に働いていました。

【図1】アルコール摂取量と脳卒中及び虚血性心疾患死亡との関連(男性34,776人)


 女性では、飲まない人に比べて、2合以上の飲酒者で虚血性心疾患の死亡リスクが4.1倍に増加しました。また、全脳卒中及び全循環器疾患においても、2合以上飲酒する場合には死亡リスクが飲まない人に比べて約2倍増加する傾向がありました。一方で、1合未満の飲酒では、全循環器疾患の死亡リスクを低下させる方向に働きました。

【図2】アルコール摂取量と脳卒中及び虚血性心疾患死亡との関連(女性48,906人)


 1日2合~3合以上の多量飲酒が出血性脳卒中リスクを増加させるメカニズムとしては、血圧値の上昇に加えて、血小板の血液を固める働き(血小板凝集能)を抑制することによって出血傾向になることが挙げられます。一方で、2合未満の少量~中等量のアルコール摂取が虚血性心疾患や脳梗塞などの虚血性の循環器疾患リスクを低下させるメカニズムとしては、血小板凝集能の低下に加えて、HDL-コレステロールの増加によって血栓をできにくくしたり、動脈硬化を抑えたりすることが挙げられます。


この研究の意義

 これまで日本人を対象とした疫学研究では、女性における飲酒習慣と循環器疾患との関連についての知見は限られていました。本研究により、多量飲酒は日本人男性では脳卒中死亡、特に出血性脳卒中死亡のリスクを増加させ、日本人女性においては虚血性心疾患死亡リスクを増加させることが示されました。また、少量~中等量の飲酒は男女ともに循環器疾患死亡リスクを低下させることが明らかとなりました。


 飲酒の循環器疾患死亡への影響の男女差については、体格やアルコール代謝能などの生物学的要因やその他の生活習慣、職業などの社会的要因が影響した可能性もあります。女性の社会進出に伴い飲酒の機会も増えてきており、女性の多量飲酒と健康影響に関する研究について今後さらなる研究が望まれます。


 本研究結果から、習慣的にアルコールを摂取する人においては、脳卒中や虚血性心疾患死亡リスクを上げないために、日本酒換算で1日1合未満~1合程度の飲酒が適正量であると考えられました。

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