塩味の好みと循環器疾患死亡

池原賢代


 生活習慣とがんや循環器疾患による死亡との関係を検討し、日本人の生活習慣病を予防するための方法を 明らかにするため、私たちはコホート研究と呼ばれる追跡研究を行っています。コホート研究を行うためには、 多くの方の協力をいただき、長い時間をかけて、病気の発生や死亡状況を観察する必要があります。 JACC Studyでは現在、全国45地区約11万人の方々にご協力をいただき、1988~90年にアンケートにより集められた情報を基に 研究を行っています。今回約18年間追跡をした結果、塩味の好みと循環器疾患死亡との関連について専門誌に発表しました (Prev Med誌 2012;54:32-37掲載)。


塩分の多い物を好む人ほど脳卒中の死亡リスクが増加

 「塩分の多い物(塩辛、塩魚、佃煮、漬物など)は好きですか」という質問に、「大好き」、「好き」、「普通」、「あまり好きでない」、「嫌い」の5つの選択肢から回答してもらい、回答が得られた84790人(男性35515人、女性49275人)を分析対象としました。 分析では、「好き:大好き+好き」、「普通」、「嫌い:あまり好きでない+嫌い」の3つに分類しました。 男女計の脳卒中死亡リスクは、「嫌い」に比べて、「普通」で1.16倍、「好き」で1.23倍と高くなりました(図1)。 また、食物頻度調査に回答した方について、算出されたナトリウムやタンパク質の摂取量を調整して解析してみましたが、 結果はほとんど変わりませんでした。


 さらに、塩分の好みと飲酒量(非飲酒、過去飲酒、エタノール46g/日未満(日本酒で2合未満)、46g/日以上(2合以上))の組み合わせに よる脳卒中死亡のリスクを検討した結果、塩分が多い物が「嫌い」かつ非飲酒者に比べて、 「普通」かつエタノール46g/日以上で1.70倍、「好き」かつエタノール46g/日以上で2.01倍と、多量飲酒者でのみ塩分の好みによって 段階的にリスクが高くなることがわかりました(図2)。


この研究の意義

 これまでにも我々のグループでは食物頻度調査から計算したナトリウム摂取量と循環器疾患死亡について報告していますが、今回の研究では、より簡便な塩分に対する好みの情報と脳卒中死亡リスクとの関連を明らかにすることができました。メカニズムとしては、塩分を好むことは若い頃から塩分を多くとることにつながり、その結果として高血圧や脳卒中のリスク増加に影響している可能性もあります。


 本研究では塩分を好むほど、虚血性心疾患死亡のリスクを低下させる傾向がありました。一般的に、塩味の濃い日本の食パターンは、魚や大豆製品など虚血性心疾患の予防に有効な成分(n3系多価不飽和脂肪酸やイソフラボンなど)を多く含む食べ物で構成されていることから、それらが予防的に働いている可能性も示唆されました。 塩味の好みは、家庭の味付けや地域など環境要因の影響を強く受けますので、お子さんやお孫さんの食事でも減塩を心がけてあげることが将来の脳卒中の予防に有効と考えられます。 また、日本酒に換算して1日2合以上の多量飲酒の習慣がある人では、飲酒量を減らすとともに、 塩辛いおつまみなどをサラダや薄味のものに代えるなど心がけることも大切です。

【図1】塩分の好みと脳卒中死亡との関連

【図2】塩分の好みと飲酒習慣との組み合わせ別脳卒中死亡リスク

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