呼吸器感染症による死亡と輸血歴との関連

井上悠輔


 血清高感度C反応性蛋白(CRP)と脳卒中や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患との関連が注目されています。


 我々は、生活習慣や過去の治療歴・病歴と肺炎による死亡との関係を、一般の方々を対象としたコホート研究の結果から評価しました。 従来、肺炎による死亡については入院患者や終末期の患者に関するケアの観点からの知見が多いのですが、 日常の生活習慣や過去の治療歴などから追跡してリスク上昇要因、あるいは低減要因について包括的に検討した事例はほとんどありませんでした。

 本研究ではJACCスタディに参加した、日本に居住する中高年世代(40歳代から70歳代)11万792名を追跡しました。 コホート群へのエントリーは1988年から1990年にかけて行い、主に住民健診受診者から研究参加者を募り、病歴・治療歴及び生活習慣に関する質問紙調査を行いました。 質問紙調査に応じてくださったこれらの方々を引き続き追跡し、2003年12月31日までの14年間における死亡者の死因を死亡小票から把握しました。 なお、転居や他都市への長期入院など追跡不可能な個人は除外しました。(J Epidemiol 2007; 17: 194-202)


肺炎による死因に関連する要因

 追跡期間中、1246名の方が肺炎を死因として死亡されていました。肺炎による死亡と生活習慣・病歴・治療歴との関係について、年齢や性別のほか、 単変量解析で有意な関係が示唆されたものなどを投入して多変量解析を行った結果、低BMI(痩せ)、喫煙歴、過去の飲酒歴、結核や脳血管疾患の病歴、 輸血経験者などがリスクを上昇させることが示唆されました。 一方、高BMI(肥満)や運動などがリスクを軽減させる傾向にあることもわかりました。 これらは、参加当初の5年間の死亡を除外しても大きな変化はありませんでした。

 これらの結果から算出された人口寄与リスク(あるリスク要因の影響を取り除くことによって軽減できる死亡の割合)は以下のとおりでした(下のグラフ)。特に喫煙習慣や運動不足、低いBMIなどについては、日常生活の段階から介入の余地があるといえます。このうち、禁煙の効果については、多変量解析の結果、5年以上禁煙すればリスクは喫煙未経験者とほぼ同じに低下することが分かりました。但し、禁煙後5年未満と回答した者は人数が少なかったこと、喫煙期間の長さも考慮する必要があること、また調査開始後の習慣の変化も想定されることなどから、本研究だけで効果のある禁煙期間を特定することはできませんでした。


 輸血歴と肺炎による死亡の増加

 ここからは、輸血歴の影響について特記します。輸血は他の手術歴や疾患歴とも深い関係を有しているため、それ自体が独立して病気のリスクを高める要因であるか、あるいは関連する医療行為や病歴が本当のリスク要因であるのか、慎重な検討が必要になります。しかし、重度の外傷歴や手術歴、女性の出産歴を調整した後も、われわれの調査結果は、輸血歴がこれらから独立して肺炎による死亡を押し上げる方向で影響している可能性を示唆するものでした。我々は、この結果について、輸血独自の影響、とりわけ輸血による免疫抑制作用の可能性を考えています。輸血された血液成分はレシピエント(輸血を受けた人)の体内に残り続けることが知られています。血液成分のうち、白血球は免疫を担当し、自分の身体に入ってくる外敵からの生体の防衛の重要な役割を果たします。しかし、こうした白血球が輸血の成分として他者の身体に導入されると、レシピエントが本来有している白血球と競合し、結果としてレシピエントの免疫機能を弱めてしまう危険性(免疫寛容)が指摘されています。例えば、白血球を含んだ血液成分を輸血した後には術後感染症の発生率が上昇することが知られており、一方で、輸血に際して白血球除去フィルターを使用することでこれらの発生が有意に抑制されるとする研究結果も知られています。輸血がレシピエントの免疫を弱めることを利用して、過去の臓器移植では、輸血をレシピエントの免疫抑制のために活用した事例もあったぐらいです。


 本調査に参加した人々の輸血歴は、1980年代以前に輸血を受けた人々です。1980年代末から90年代にかけて献血基準が大きく変化していますが、それまでは各種の血液性ウイルスや白血球除去などを施さない「全血輸血」が輸血の主流でした。輸血による健康影響としてはHCVによる肝炎の発症が知られていますが、80年代以前の輸血がもたらす血液ウイルス以外の副次的作用についても今後さらに検討する必要があると思われます。以上から、輸血に関連して慢性的に免疫寛容が惹起されることが、呼吸器疾患の死亡増に関係している可能性があるのではないかと我々は考えています。

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