細胞増殖因子と循環器疾患死亡との関係

磯博康


 細胞増殖は、動脈硬化の進展の重要な過程の一つです。中でも、インスリン様成長因子(IGF)-IやIIは、血管平滑筋細胞の遊走や増殖に関与していることがわかっています。


 また、IGF結合タンパク(IGFBP)-3は、体内での遊離のIGF-IやIIの量を調節しています。 他にも、形質転換成長因子(TGF)β1は、血管内批細胞や血管平滑筋細胞の遊走や増殖の調節に関与しています。従って、これら細胞増殖因子は、循環器系疾患の発症と関連すると推測されます。


 われわれは文部科学省大規模コホート研究において、約13年間追跡調査を行った結果、血清高感度CRP値と循環器疾患死亡との関連を見出し、その結果を専門誌に発表しました(Atherosclerosis 2009;207;291-297)


血中IGF-1濃度が高いと、脳内出血による死亡リスクが低い

 本調査の結果、血中IGF-1濃度が高いと、脳出血による死亡リスクが低いことがわかりました。IGF-1濃度が最も低いグループに比べ、最も高いグループではそのリスクが0.02倍でした(図3)。IGF –Iの血管平滑筋細胞におけるアポトーシス(細胞死)の抑制によるものと考えられます。


血中TGF-β1濃度が高いと、脳梗塞による死亡リスクが低い

 TGF-β1は、血管内皮細胞や血管平滑筋細胞の遊走や増殖を増強したり抑制したりしていますが、正味の影響としては動脈硬化を予防する可能性が示唆されています。本研究では、血中TGF-β1濃度が高いと、脳梗塞による死亡リスクが低いことがわかりました。 TGF-β1濃度が最も低いグループに比べ、最も高いグループではそのリスクが0.20倍でした(図4)。


まとめ

 本研究において、血中IGF-1濃度と脳内出血、血中TGF-β1濃度と脳梗塞との関連が示されました。その他の脳卒中の病型に関してや、 IGF-Iと同様の働きをもつIGF-II、それらの遊離の調節因子であるIGFBP-3とは関連がみられませんでした。


 IGF-IIについては、先行研究においても循環器系疾患や動脈硬化との明らかな関連がみられていないこと、IGFBP-3については、一般人においてはIGF-1との相関は弱く、その遊離状態を反映していない可能性があること等が理由と考えられます。

 血中のIGF-1やTGF-β1といった細胞増殖因子の濃度が、将来の循環器疾患死亡を予測する上で有効である可能性が示されました。

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