生殖歴と結腸がん罹患との関連

玉腰浩司


 女性の一生の健康について考える際、幼少期、思春期、性成熟期、更年期、老年期に亘る女性特有の因子、すなわち初経年齢、妊娠出産歴、初産年齢、閉経年齢などがどのように、また、どの程度疾病の発生に影響を与えているかを明らかにすることは大切です。そこで私たちはこれらの生殖歴と近年増加傾向にある結腸がん発生との関連について検討しました。


初経年齢が早いほど、結腸がんになりやすい

 40歳から79歳の女性38,420人を約7.6年間追跡したところ、207人の方が結腸がんに罹患されました。私たちの研究では、追跡開始時に初経年齢、妊娠出産歴、初産年齢、閉経年齢などの生殖歴を含む生活習慣アンケートを実施しており、それらと結腸がんの発生との関連を検討しました。初経年齢については、12歳以下で初めて月経があった方たちを基準として、13歳から15歳の間にあった方たちと 16歳以上であった方たちがどれくらい結腸がんに罹患する危険があるかを計算したところ、それぞれ0.74倍、0.62倍でした。同様の解析を調査時点で?閉経を迎えていた方たちのみを対象に行ったところ、0.64倍、0.49倍と数値はさらに小さくなり、初経年齢が高くなるほど結腸がんに罹患する危険が統計学的にも有意に低くなる傾向がみられました。この結果は、逆に言えば初経年齢が低いほど結腸がんに罹患する危険が高いと解釈できます。

【図1】初経年齢と結腸がん罹患との関連


流産・死産の数が多いほど結腸がんになりやすい

 妊娠の経験がある方はない方に比べて、結腸がんに罹患する危険は0.82倍であり、また、出産の経験がある方はない方に比べて0.65倍でした。これらの結果はいずれも統計学的に有意ではありませんでしたが、妊娠、出産経験は結腸がんに罹患する危険を下げるようです。


 さらに私たちは妊娠、出産回数から流産・死産歴を求め、妊娠歴がある方のみで結腸がん罹患に対するその影響をみました。流産・死産歴のない方を基準とした場合に、 1回の流産・死産歴のある方、2回以上ある方がどれほど結腸がんに罹患する危険があるかを計算したところ、それぞれ1.29倍、1.72倍となり、流産・死産歴が多くなるほど結腸がんに罹患する危険が統計学的にも有意に大きくなる傾向がみられました。初産年齢、閉経年齢と結腸がん罹患との間には関連はみられませんでした。

【図2】流産・死産歴と結腸がん罹患リスクとの関連


 以上の結果を導き出す過程においては、統計学的な手法を用いることにより結腸がんの発生に関係すると考えられる年齢、喫煙、飲酒、運動習慣、肉の摂取量などについても考慮しており、女性の生殖歴はこれらの要因とは別に結腸がんの罹患と関連していることが示されました。


 初経年齢が低いことと結腸がん罹患との関連を説明するメカニズムの一つとして、インスリン抵抗性の存在が考えられます。初経年齢が早い女性ほど脂肪の蓄積が早期に始まり、それに伴ってインスリン抵抗性が進み、血中のインスリン値が上昇すると推測されます。そしてインスリンには結腸の上皮細胞やがん細胞を増殖させる作用があるため、結腸がんの発生に繋がるという説です。


 妊娠出産が結腸がんへの罹患を防ぐメカニズムについては、妊娠出産に伴う胆汁酸代謝の変化、家族数の増加に伴う運動習慣をはじめとする生活習慣の変化など諸説があります。本研究で得られた流産・死産歴と結腸がんとの関連は、今までのところ欧米での研究でも一致した見解は得られておらず、そのメカニズムについても今後の検討課題です。


 本研究の対象者は、1988年の研究開始時に40歳から79歳であった女性です。 1990年以降、食習慣をはじめとする生活習慣の変化により、我が国の女性の初経年齢はさらに低年齢化が進み、加えて社会経済状況の変化に伴い、過去に比類なき少子化が進んでいます。時代とともに変化している女性の生殖歴が、今後どのように女性の疾病に影響を与えるか、結腸がんのみならず他の疾患についても明らかにする必要があるでしょう。

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