脂肪組織由来のホルモンであるレプチンと女性の大腸がんとの関連

玉腰浩司


 レプチンは、脂肪細胞から分泌されるホルモンであり、その主な働きは脳の視床下部にある食欲中枢に作用して食欲を抑制させることです。このように説明すると、肥満の人はレプチンが低いように思われますが、実は過剰に分泌されており、肥満の人は、血中のレプチン濃度は高いにもかかわらず、レプチンの作用が認めにくい状態、即ちレプチンが効きにくい状態といえます。


 レプチンは、他にも生殖に関連するホルモンや成長ホルモンの分泌機構にも影響を与えています。喫煙とする人はその濃度が低く、飲酒をする人は高いとの研究報告もあります。さらに、がんとの関連では、大腸がんの発生に関わるといわれているインスリン様成長因子との関連が報告されているとともに、最近の実験研究によるとレプチンそのものが大腸がん細胞の増殖や浸潤を刺激するとの報告もあります。そこで、我々は、疫学的にレプチンと大腸がんとの関連を明らかにするとともに、その関連が大腸がんの発生に関わっていることが既に分かっている要因を介してのものなのか、あるいはそれらとは独立した関連を示すのかを検討しました。(Oncology 2005; 68: 454-461)。


血液中のレプチン濃度が高くなるにつれて大腸がんの人が占める割合が高い

 研究の対象は、平均7.6年の観察期間中に大腸がんに罹った58名の女性と他のがんに罹ったことが無くかつ観察期間中にがんに罹らなかった女性145名です。いずれの方も本研究に参加する時点で血液の採取及び保存に同意をされており、これらの血液におけるレプチン濃度を測定しました。


 対象者を血中レプチン濃度をもとにできる限り人数が均等になるように5群に分け、各々の群における大腸がんに罹った人の割合を求めました。便宜的に一番濃度が低かった群をQ1とし、高くなる順にQ2、Q3、Q4、Q5とします。各々の群における大腸がんに罹った人の割合は、8/37(21.6%)、10/38(26.3%)、8/29(21.6%)、18/48(37.5%)、14/43(32.6%)であり、血中レプチン濃度が上昇するほど大腸がんに罹った人の割合が増加する傾向が認められました。さらに年齢、肥満度、喫煙歴、飲酒歴、運動習慣、肉の摂取頻度、緑黄色野菜の摂取頻度、大腸がんの家族歴、妊娠歴、初経年齢、閉経の有無、インスリン様成長因子の血中濃度を考慮し、Q1を基準すなわち1とした場合にQ2からQ5の群が何倍大腸がんに罹ることと関連しているかを求めると、順に1.35、1.47、5.07、4.58と血中レプチン濃度が高いほど大腸がんに罹った人の割合が高く、特にQ4を境に高くなる傾向が見られました。(図1)


 Q4を境に大腸がんに罹った人の割合が高くなる原因をこの研究から明確に示すことはできません。他の研究の結果から、単に脂肪細胞から分泌されるレプチン濃度が高いだけでなく、血液中のレプチンを運ぶ役目を果たしている受容体濃度が低いことが分かっています。レプチンがその作用を発揮するためには、この受容体から離れていることが必要であり、レプチンや肥満度がある基準を超えると急激に自由なレプチンが増えてくるのかもしれません。


 今回の結果より、レプチンは既存の大腸がんに関連する要因と独立して大腸がんの発生に関わっている可能性が示唆されました。大腸がんを予防する視点からこの結果を考えると、例えば肥満を解消することは、大腸がんの危険因子である肥満そのものの影響を除くだけでなく、脂肪細胞が分泌するレプチン濃度も下げることになり、さらなる効果が期待できると言えます。

【図1】血中レプチン濃度と大腸がんとの関連の大きさ

copy_rihgt_JACC