血清インスリン様成長因子(IGF-I)と膵がん死亡との関係

林櫻松


 膵がんは、予後が非常に悪いことから、早く見つけ早く治療することが特に重要です。しかし、膵がんの早期診断は、現在の血液検査や腫瘍マーカー、画像診断では非常に難しい状況です。そこで早期発見のためには、血液の中で早い時点で上昇してくる新たなマーカーを見つけることが必要と考えられます。


 我々は、血清インスリン様成長因子(IGF-Iに略します)というものに注目しました。 IGF-Iは、いろいろな組織で作られ、主に細胞増殖を促進するという働きを持っています。今までの研究では、血清IGF-I濃度が高いほど、前立腺がん、乳がん、肺がん、大腸がんのリスクが高くなることが示されていますが、膵がんについての報告はまだ見当たりません。


 そこで、血清IGF-Iとその結合蛋白IGFBP-3と膵がん死亡の関係を調べるためにJACC Studyの対象者の中でコホート内症例対照研究を行いました。その結果を専門誌(International Journal of Cancer 2004; 110: 584-588.)に発表しましたのでご紹介します。


血清IGF-I濃度が上がると膵がんの死亡リスクが上昇する

 対照群の血清IGF-I濃度によって、症例群と対照群を4つのグループに分けました。図1は、血清IGF-I濃度が最も低いグループと比べて、最も高いグループの膵がん死亡リスクは何倍になるかを示しています。血清IGF-I濃度と膵がん死亡リスクとの間には正の関連があり、濃度が一番高いグループでは一番低いグループと比べ膵がん死亡リスクが1.74倍と高くなりました。膵がんと診断される前に血液を採っていますので、病気によりIGF-I濃度が上がったという可能性は少ないと考えられます。このことから、血清IGF-Iが高値の人ではそうでない人に比べその後の膵がん死亡リスクが上昇する、ということがわかりました。


血清IGFBP-3濃度が高いほど膵がんの死亡リスクも高い

 IGF-Iと同様に、対照群の血清IGFBP-3濃度によって、症例群と対照群をそれぞれ4つのグループに分けました。血清IGFBP-3濃度が最も低いグループと比べた場合の、血清IGFBP-3濃度が最も高いグループの膵がん死亡リスクは2.03倍という結果でした。血清IGFBP-3濃と膵がん死亡リスクとの間にも正の関連があることがわかりました。


 今回の研究から、血清IGFとその結合蛋白IGFBP-3濃度が高い人は低い人と比べて、膵がんで死亡しやすいことがわかりました。膵がんの早期診断には血清IGF-Iがマーカーとして使えるかもしれません。しかし、使えたとしても血清IGF-Iは膵がんに特異的なマーカーではありませんので、他の血液マーカーと組み合わせて見る必要があります。今後、症例の数を増やし、さらに研究を続けることが大切です。

copy_rihgt_JACC