飲酒と総死亡との関連

林櫻松


 飲酒が健康にもたらす影響について関心が高まっています。 欧米の研究では、適度に飲む人はまったく飲まない人に比べて死亡リスクが少ないことが報告されています。

 しかし、日本人を対象とした信頼性の高い研究はまだ少なく、そのため、日本人ではどれくらいの飲酒が適量であるかということは明らかではありません。


 私たちは、約11万人の地域住民を対象とし、10年間の追跡を行った研究で、飲酒と死亡との関係を検討しました。研究結果を専門誌に発表しました(Ann Epidemiol 15巻 590-597ページ 2005年)。概要について以下に説明します。


毎日1合未満飲む人達の死亡率が一番低い

 飲酒量別のグループを作り、飲まない人たちを基準にした死亡リスクを検討してみました。アルコール類には、日本酒、ビール、焼酎などいろいろありますが、飲んでいる種類にもかかわらず、アルコール度数から日本酒に換算して計算しています。


 図1(男性)と図2(女性)は、非飲酒者を1とした場合の、年齢、体格指数、教育、喫煙、運動、糖尿病と高血圧の既往を補正した、各飲酒者グループの相対死亡リスクを示しています。


 男性では、1日23g未満(日本酒1合未満)飲酒している少量飲酒者の死亡リスクは低く、総死亡のリスクは0.80、全がん死亡のリスクは0.82でした。 それより飲酒量が増えると、増加に伴いリスクも増加傾向にあり、1日69g以上(日本酒3合以上)飲酒している多量飲酒者の総死亡のリスクは1.32となりました。全循環器疾患死亡においても、同様な結果が観察され、1日23g未満飲酒している少量飲酒者でリスクが最も低いといえます。


 男性と同様、女性においても、1日23g未満(日本酒1合未満)飲酒の少量飲酒者で総死亡リスクが最も低くなりました。特に循環器疾患死亡リスクについては顕著で、少量飲酒者では死亡リスクが30%有意に低下したしていました。

【図1】男性飲酒者の総死亡、がん死亡、循環器疾患死亡の相対リスク

【図2】女性飲酒者の総死亡、がん死亡、循環器疾患死亡の相対リスク


 さらに、対象者を40-59歳と60-79歳の2つのグループに分けて、飲酒と死亡の関係を検討したところ、男女とも40-59歳の人達と比べて60-79歳の人達で少量飲酒者の死亡リスクがより低いことが分かりました。


 飲酒と死亡リスクの関係、特に少量飲酒がはたして健康にいいのかという結果を理解するには、3つの問題を考える必要があります。


 まず、お酒を飲まない人達の中には、昔はたくさん飲んでいたのに、健康を害して飲まなくなった人達が一部混ざっています。その結果、飲まない人達の死亡率を高めたかもしれません。


 次に、少量飲酒者は非飲酒者よりその他の生活習慣や社会的状況(例えば、運動や栄養、睡眠)がよいため、死亡リスクが低くなったということが考えられます。


 最後に、今回用いた研究手法(観察疫学研究のなかでコホート研究と呼ばれるものです)では、少量飲酒者の死亡リスクが低いという関連が認められても、少量飲酒自体と死亡リスクの低下との因果関係を直接証明したことにはなりません。少量飲酒の健康影響を直接証明したい場合は、非飲酒者を無作為に2つのグループに分けて、片方のグループには飲酒をしてもらって、2つのグループの死亡率を比較するような研究を行わなければなりません。しかし、倫理的な問題などからそのような研究(介入研究といいます)の実施は困難です。


 結論的には、酒を飲むのであれば1日に1合程度までというのが、現在までに報告されている総死亡、心臓病、脳卒中の危険性が低下する飲み方であると言えます。適度な飲酒が健康にいいとはいえ、アルコール摂取が食道がん、乳がん、肺がん発生率を高めることはこれまでの研究で判っており、過度な飲酒は重篤な健康障害をもたらし、死亡リスクをも高めます。


今回の研究結果は、飲酒をしない人に、無理に飲むことを推奨するものではありません。

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