血清形質転換成長因子(TGF-β1)と膵がんの関連

林櫻松


 これまでのところ、膵がんの危険因子としてはっきりわかっているのは、喫煙と長期間の糖尿病歴のみです。診断と治療の進歩にもかかわらず、膵がんは依然として早期発見が困難で、がんの中で最も予後が不良な難治がんとして知られています。このため、多くの方の中から膵がんになりやすい人をより早い段階で見つけ、早期診断・早期治療により予後を改善することはとても重要です。


 私たちは、形質転換成長因子(TGF-β1と略します)というたんぱく質に注目し、コホート内症例対照研究という研究手法で血液中のTGF-β1値と膵がん死亡リスクとの関係を調べ、研究結果を専門誌(Cancer Causes Control、2006年、17巻、1077-1082ページ)に発表しました。その概要をご紹介します。


TGF-β1とは何か?

 TGF-β1は、分子量25kDaの二量体たんぱくです。正常細胞の増殖を促進する因子として同定されましたが、その後の研究により、多くの上皮細胞や血球細胞などの増殖を抑制することも明らかにされました。 TGF-β1とがんとの関係も調べられつつあり、肝がんや前立腺がん、膀胱がんなどの患者では血中TGF-β1濃度が有意に高く、そのレベルはがんの進行程度や転移と高い相関を示すことが報告されています。


血清TGF-beta1濃度が高いと膵がん死亡リスクが上がる

 図1に血清TGF-β1の濃度と膵がん死亡との関係を示します。 TGF-β1濃度を4段階に分けて、一番低い区分の人たちの膵がん死亡リスクを1としたときの、他の区分の人たちの相対的な死亡リスクを示しています。一番高い濃度の区分の人たちは、一番低い区分の人たちに比べて、膵がん死亡リスクが約3倍高いことがわかりました。 さらに、統計的に喫煙や肥満など膵がんの危険因子による影響を考慮しても、血清TGF-β1濃度が高いほど、膵がん死亡リスクは上昇していました。


血清TGF-β1と膵がんとの関連をどう見るべきか

 今回の研究では、膵がんと診断される何年も前に採取された血液中でもTGF-β1濃度が高いほど、その後の膵がん死亡リスクが高いことが明らかになりました。ただし、今回は検討に用いた症例(血液が保存されていて膵がんで亡くなった方)数が少なかったため、ほかの研究で同じ結果が得られるかどうか確認することが重要です。また、血清TGF-β1という1つの血液中のたんぱく質だけでなく、ほかの血液中の物質(たんぱく質など)の値と組み合わせて判断すると、膵がんリスクをより正確に予測できると考えられています。

【図1】血清TGF-β1濃度と膵がん死亡リスク

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