喫煙と乳がんの関連

林櫻松


 乳がんは、体質という遺伝的な要因と生活習慣などの環境的な要因とが絡み合って発生すると考えられています。乳がんの多くは、女性ホルモン依存性であり、エストロゲン濃度が高い女性ほど、乳がんリスクが高いことが多くの研究で示されています。欧米では、喫煙が女性の乳がんリスクを高めるとの研究報告がありますが、そうではなかったという研究もあり、本当に関係があるかどうかはまだわかっていません。一方、わが国では喫煙と女性乳がんとの関係はあまりわかっていません。


 私たちは、前向きコホート研究という研究手法を用いて、喫煙および受動喫煙(他の人が吸ってはきだしたたばこの煙を吸い込むこと)と女性乳がんとの関係を調べました。詳しい結果は専門誌に発表しておりますが(Journal of Epidemiology 2008; 18:78-83)、ここでは概要をご紹介します。


 この研究は、全国24地域に住む40~79歳の女性約3万6000人を10年間追跡調査しました。調査期間中、乳がんになった方は208人でした。喫煙習慣は調査開始時に生活習慣アンケートによりお尋ねしました。

 もともと喫煙しない場合(非喫煙者)を1とした乳がんにかかる危険度を、禁煙者、現在喫煙者について計算したところ、現在喫煙者では非喫煙者の0.8倍という結果が得られました(図1)。

【図1】喫煙と乳がんリスクとの関連


 この結果は、現在喫煙者であっても、乳がんリスクの増大は見られないということを意味します。 また、禁煙者については、乳がんリスクがやや増大していたものの、統計学的に有意な関連ではありませんでした。


受動喫煙で乳がんリスク上昇が見られない

 次いで、たばこを吸わない女性のみを対象にして、受動喫煙と乳がんとの関連を検討しました。家庭で受動喫煙を受けていた女性の乳がんリスクは、受動喫煙のない女性の0.7倍でした。また、子どものころ、受動喫煙を受けていた女性の乳がんリスクは、そうではない女性の1.2倍となりましたが、統計学的に有意な関連ではありませんでした。


喫煙と乳がんの関連をどう見るべきか

 喫煙と乳がんとの関連は非常に複雑で、閉経状態や女性ホルモンなどによって異なることが、たくさんの研究によって示唆されています。このため、実際に喫煙により乳がんにかかるリスクが増えるか否かについては、いまだに明確な結論が出ていません。

 今回の研究対象となった女性は、ほとんど閉経後であり、閉経後の女性では喫煙(受動喫煙も含む)と乳がんとの間に有意な関連がないことが示唆されました。しかし、乳がんにかかった女性でたばこを吸っていた方は非常に少なかったので、この研究からのみで喫煙と乳がんリスクの関連を結論づけるには限界があると考えられます。また、受動喫煙は、曝露の時期や量など正確な情報を集めることがなかなか難しいため、乳がんリスクとの関連についてはさらに研究を深めることが必要です。


 最近では若い女性の喫煙が増えていますので、今後発生してくる乳がんとどう関係するのかさらに研究を続けなければなりません。また、たとえ喫煙が乳がんと関連しないとしても、肺がんをはじめほかの部位のがんの危険性を高めること、禁煙によりそのリスクが下がることはわかっていますので、吸い始めないこと、吸っている方については禁煙すること、の重要性を強調したいものです。

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