肥満、運動と膵がんの関連

林櫻松


 膵がんは、近年増加しつづけていますが、その発生要因はほとんどわかっていません。生活習慣の改善により、どの程度予後の悪い膵がんを予防できるかは重要な研究課題です。疫学研究により、肥満者は正常体重の人と比べ、いくつかの部位のがんリスクが高くなることが示されています。膵がんについては、欧米では肥満が膵がんリスクを上昇させるという研究報告が多くみられますが、日本では両者の関係を調べた研究はほとんど見当たりません。また、運動が膵がんの予防に役立つかどうかについては、一致した結論が得られていないのが現状です。


 そこで、私たちは信頼性の高い大規模コホート研究のデータを用いて、肥満や運動と膵がんとの関連を分析し、結果を専門誌(International Journal of Cancer 2007年、120巻、2665-2671ページ)に報告しました。その概要をご紹介します。


男性で20歳頃の肥満が膵がん死亡と関係がある

 40歳から79歳の男性43,579人と女性59,107人を1988年から2003年末まで追跡したところ、それぞれ207人、195人が膵がんで亡くなりました。この研究では、追跡開始時に身長と現在ならびに20歳頃の体重をお尋ねしており、それらをもとに肥満の指標である Body Mass Index(以下BMIと略します)を求め、膵がんの死亡との関連を検討しました。

 BMIは、肥満の代表的な指標です。体重(Kg)を身長(m)の2乗で割ることにより求められます。 1999年に日本肥満学会から出された判定基準によれば、18.5以上25未満が普通体重、25以上が肥満と定義されます。


 図1に20歳頃のBMIが20以上22.5未満の人たちを基準(死亡リスクを1とする)にした場合に、他の5つのグループの人たちがどの程度膵がんで死亡する危険があるかを示します。男性では20歳ごろのBMIが大きい人ほど、膵がん死亡リスクが高く、BMIが30以上だった人たちは20以上22.5未満だったグループに比べ膵がん死亡リスクが約3.5倍高いことがわかりました。

 一方、男性の研究開始時の肥満とは関連が見られず、また、女性では、研究開始時の肥満も20歳頃の肥満も膵がん死亡リスクと関連しませんでした。

【図1】20歳頃のBMIと膵がん死亡リスク(男性)


膵がんに対する運動の予防効果はみられません

 この研究では、追跡開始時にアンケート調査により運動習慣もお尋ねしましたので、膵がん死亡リスクとの関連を検討しました。 1日ほとんど歩かない人と比べ、1日平均して1時間以上歩くと答えた人たちの膵がん死亡リスクは、男性で0.8倍、女性で1.0倍となりましたが、統計学的に有意な関連ではありませんでした。同様に運動時間についても、膵がんリスクの低下と関連しませんでした。


肥満、運動と膵がんとの関連をどうみるべきか

 今回の分析の結果、20歳頃の肥満は、男性において膵がん死亡と関係していることが分かりました。肥満の人には余分な脂肪が蓄積し、体内のホルモンに影響を及ぼし、そのため細胞増殖の異常が生じ、膵がんになる可能性が高まると考えられます。 肥満は膵がんだけでなく、食道がんや、大腸がん、閉経後の女性乳がんなどのがんリスクも増大させますので、適切な体重を維持することは大切です。

 今回の研究では運動と膵がんとの関連は見られませでしたが、膵がんリスクを下げるという研究報告もあるので、今回の結果だけで効果なしと判断するのではなく、運動の膵がん予防効果について研究を重ねる必要があります。


 最近の疫学研究を総合してみますと、膵がんは食事、運動といった生活習慣の改善により、部分的ではありますが予防できるがんであると言えます。膵がんを予防するためには、体重に注意し、日常生活で定期的に運動し、バランスのとれた健康的な食事を摂ることが重要です。

copy_rihgt_JACC