血清インスリン様成長因子(IGF-1, IGFBP-3)と前立腺癌罹患の関係

三神一哉


 前立腺がんは欧米に比べ日本では比較的少ないがんでしたが、最近になり急速に増加しています。血清インスリン様成長因子(IGF-1)は細胞増殖を促進する因子で、正常細胞だけではなく乳がん・大腸がん・肺がんなどでもその関与が指摘されています。前立腺がんについても、血清IGF-1濃度との関連が指摘されており、血清IGF-1濃度が高いと前立腺癌のリスクが高くなり、反対にIGF-1に結合する蛋白(IGFBP-3)濃度が高いと前立腺癌のリスクが低くなることが示されています。報告によってはこれらの関係について否定的なものもありますが、複数の論文をまとめた最近の報告では従来から言われている関係がありそうとされました。しかし、今までに日本人で検討した報告はありません。


 そこで、JACC Study参加者の中で血液を提供していただいた対象者のうち前立腺がんに罹患した40人の男性(症例)の血清サンプルと、同じ地区で、似通った年齢で、前立腺がんに罹患されていない男性(対照)との比較(コホート内症例対照研究)を行ないました。この結果は、専門誌(Asian Pac J Cancer Prev 2009; 10: 57-61)に発表しました。


IGF-1やIGFBP-3と前立腺癌罹患の間に明らかな関係は認めなかった

 対照男性の血清IGF-1濃度をもとに対照者の人数がちょうど3グループに分かれるように基準値を設定して、全体を3つのグループに分けました。図1はIGF-1濃度が最も低いグループに比べた、ほかのグループの前立腺がん罹患リスクを示しています。濃度が中位のグループではリスクが0.24倍と低くなっていますが、濃度が高いグループではリスクはなく、一定の傾向を示しませんでした。IGF-1濃度が高かったり、低かったりすると、リスクが高くなるとも解釈できますが、これまでの報告とは異なる結果でした。


 図2はIGF-1濃度と同様に血清IGFBP-3濃度によって、対照群と症例群を比較した結果です。IGFBP-3はむしろ前立腺がん罹患者で高く、一番高いグループでは一番低いグループに対して罹患リスクが2.27倍になっていましたが、統計学的には意味がある差ではありませんでした。濃度が上がるごとにリスクが高くなる傾向も認めましたが、これも統計学的にははっきりとした関係ではありませんでした。


 今回の結果は、従来報告されている血清IGF-1やIGFBP-3と前立腺がんとの関連とは異なるものでした。日本人についてのIGF-1と前立腺がん罹患については過去に報告がなく、これが初めての報告になります。異なる結果となった原因が、日本人に特有の関係であるのか、症例数が40人と少なかったために十分な検討ができなかったからなのか、あるいは何か他の要因が関係しているのか、今のところわかりません。こうした関連をはっきりさせるために、今後さらに症例数を増やして研究を続けることが大切です。

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