飲酒と肺がん

西野善一


飲酒で肺がんになる危険性は高まるのか?

 お酒をのむことによって肺がんになる危険性が増えるかどうかについてははっきりとはわかっていません。いくつかの研究からは飲酒による肺がん危険性の増加が報告されています。しかし、一般にお酒を飲む人は飲まない人と比べて喫煙の習慣を持つ傾向があり、喫煙は肺がんの危険性を大きく高めることから、この結果は飲酒自体ではなく喫煙による影響の可能性もあります。


 日本人は、今までに飲酒と肺がんとの関連について多くの研究がなされている欧米の人とは飲むお酒の種類が異なり、またアルコールを分解する際にできるアセトアルデヒドを代謝する働きが弱い人の割合が多いという特徴があります。アセトアルデヒドは動物実験で発がん性が示されており、日本人における飲酒と肺がんの関連は他国の人とは異なるかもしれません。


 ここでは飲酒習慣がある人において肺がんで亡くなる危険性が増えるかどうかについて、日本全国の約2万8千人の男性を最大12年追跡して得られたデータから検討した研究結果の概要について紹介します。研究の詳細は2006年に出された学会誌(Journal of Epidemiology 16巻 49-56ページ)に掲載されています。


飲酒と肺がんとの間に明確な関連なし

 解析の結果、飲酒量と肺がんで死亡する危険性との間には、明らかな関連を認めませんでした。調査開始時点でお酒を飲む人は、もともとお酒を飲まない人と比べ喫煙者の割合が多く、肺がんを予防する可能性がある野菜や果物を食べる回数が少ない傾向にありました。


 そこで、これまで吸ったたばこの量や野菜・果物の摂取回数を統計学的に調整して比較もしてみましたが、お酒をアルコール量で1日50g以上(日本酒に換算して1日約2.2合以上)飲む人においても肺がんで死亡する危険性は飲まない人とほとんど変わりませんでした(グラフ)。


 なお、調査開始時点でお酒を止めていた人(禁酒者)が肺がんで死亡する危険性はもともとお酒を飲まない人と比べて約70%上昇していました。これらお酒をやめた人の中には調査時点で肝臓病や糖尿病などの他の疾患を持つ人が多くいます。お酒を止めるきっかけとなった疾患が肺がんで死亡する危険性と関連しているのかもしれませんし、調査時点で既に肺がんになっていたかその兆候があってお酒を止めていたのかもしれません。


 今回の結果からは喫煙や食事習慣などの要因を調整した比較で飲酒と肺がんとの間に明確な関連はありませんでした。今後飲酒と肺がんとの関連をさらに明らかにしていくには、肺がんと強い関連を持つ喫煙の影響を完全に取り除くために大勢の非喫煙者だけを対象とした研究を行うことや、お酒の種類で肺がんへの影響が異なるかなどについて検討をすすめる必要があると思われます。

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