運動と循環器疾患死亡 -JACC Studyの結果から-

野田博之


 様々な生活習慣と、がん・虚血性心疾患・脳卒中・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てることを目的として、私たちは、コホート研究と呼ばれる研究を行っています。コホート研究を行うためには多くの皆様のご協力をいただき、長い時間をかけて、病気の発生や死亡状況を観察する必要があります。


 現在、全国45地区、約11万人の方々にご協力をいただき、1988~1990年のアンケート調査により集められた情報を元に研究を行っています。今回の研究では、そのうちの約7万人の人にアンケート調査で歩行時間及びスポーツ参加時間をお尋ねした上で、その後の循環器疾患死亡リスクについて追跡調査を行いました。その結果、運動と循環器疾患死亡との間に関係を見出し、国際専門誌(Journal of the American College of Cardiology 46巻1761-1767 2005年)に発表しました。その研究結果を紹介します。


10年にわたる追跡研究

 10年間にわたる追跡期間中に男性1,081人、女性865人、合計1,946人の循環器疾患死亡が確認されました。循環器疾患死亡リスクについて、運動時間による4つの群の間で比較を行いました。循環器疾患死亡リスクは高齢、男性、喫煙などの他の要因によっても高くなることがわかっていますので、あらかじめ統計学的な手法を用いてそれらの影響を除いた上で、運動時間とその後の循環器疾患死亡リスクとの関連を分析しました。


 図1では歩行時間が1日30分程度の人を、図2ではスポーツ参加時間が週1-2時間程度の人を基準とした時の、脳梗塞および虚血性心疾患死亡の起こりやすさを示しています。


歩行時間が多いと脳梗塞死亡が少なくなり、 スポーツ参加時間が多いと虚血性心疾患死亡が少なくなる

 歩行時間と循環器疾患死亡リスクとの関係を見ると(図1)、歩行時間が1日30分程度の人に比べ、歩行時間が1日1時間以上の人では脳梗塞死亡のリスクが30%低くなりましたが、虚血性心疾患死亡のリスク低下は明らかではありませんでした。


 一方、スポーツ参加時間と循環器疾患死亡リスクとの関係を見ると(図2)、スポーツ参加時間が週1-2時間の人に比べ、歩行時間が週5時間以上の人では虚血性心疾患死亡のリスクが50%低くなりましたが、脳梗塞死亡のリスク低下は明らかではありませんでした。今回の研究では、歩行時間及びスポーツ参加時間と脳内出血死亡及びくも膜下出血死亡との間には明らかな関係は認められませんでした。


今回の研究の意義 -日本人でも運動による循環器疾患予防の可能性-

 運動をすると循環器疾患の予防につながるということは、常識と思われているかもしれませんが、その真偽については長い間、議論の対象となっていました。欧米人に比べて労働による身体活動が多いとされる日本人において、過重肉体労働が脳内出血発症のリスクを上昇させることが過去の研究で示されていました。


 一方で、欧米における研究では、運動が虚血性心疾患や脳卒中の発症を予防するという研究結果が示されており、日本において、運動を行うことが循環器疾患の予防につながるかについて検討する必要がありました。

 今回の研究において、運動時間が長い人において脳梗塞死亡や虚血性心疾患死亡のリスクが低かったことは、日本人においても、運動による循環器疾患予防の可能性があることを示しています。

 今回の研究の特徴として、運動時間が一番短い人を基準群としては用いず、2番目に短い人を基準として用いたことがあげられます。


 これまでの多くの研究では、運動時間が一番短い人を基準として、循環器疾患のリスクが低下するかについて検討していました。しかし、運動時間が一番短いグループの中には、何らかの病気があるために運動が出来ない人が含まれている可能性があり、その結果、運動の効果を過大評価する危険性がありました。


 今回、運動時間が一番短い人を基準として用いない、より厳密な分析でも明らかな関係が示されたことは、運動による循環器疾患予防の可能性をより強く支持しています。また、歩行時間は脳梗塞死亡と、スポーツ参加時間は虚血性心疾患死亡と関係していました。この結果は、運動の強度によって予防される疾患が変わってくる可能性があることを示しています。


なぜ運動が循環器疾患を減らすのか?

 運動を行うと・・・
1)血圧値を低下させる
2)インスリン感受性が上昇する
3)HDL-コレステロール値を上昇させる
など体の中で変化が起きると考えられています。 そのため、運動時間が増えると、それらのメカニズムによって脳梗塞や虚血性心疾患が起こりにくくなると考えられます。

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