喫煙およびスポーツ参加時間と虚血性心疾患死亡の関係

野田博之


 様々な生活習慣と、がん・虚血性心疾患・脳卒中・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てることを目的として、私たちは、コホート研究と呼ばれる研究を行っています。コホート研究を行うためには多くの皆様のご協力をいただき、長い時間をかけて、病気の発生や死亡状況を観察する必要があります。 JACC Studyは、全国45地区、約11万人の方々にご協力をいただき、1988~1990年のアンケート調査により集められた情報を基に行われています。


 これまでの研究成果として、喫煙や運動不足がそれぞれ虚血性心疾患につながることが既に示されています。しかしながら、これらの複合的な効果については、これまで検証されていませんでした。

 喫煙と運動はそれぞれ逆の影響を持つ冠動脈危険因子であるため、運動による虚血性心疾患予防効果を喫煙が減少させる可能性があります。今回の研究では、スポーツ参加時間と虚血性心疾患死亡の関係に対する喫煙の影響を検証し、国際専門誌(Heart 2008; 94: 471-475.)に発表しました。


10年を超える追跡研究

 今回の研究では、約8万人の人にアンケート調査で喫煙状況およびスポーツ参加時間をお尋ねした上で、その後の虚血性心疾患死亡のリスクについて追跡調査を行いました。

 平均12.7年間にわたる追跡期間中に638人の虚血性心疾患死亡が確認されました。虚血性心疾患死亡リスクについて、スポーツ参加時間による4つの群の間で比較を行いました。虚血性心疾患死亡のリスクは高齢、男性、ストレスなどの他の要因によっても高くなることがわかっていますので、あらかじめ統計学的な手法を用いてそれらの影響を除いた上で、スポーツ参加時間とその後の虚血性心疾患死亡リスクとの関連を、喫煙経験なし、過去喫煙あり、現在喫煙ありの3群に分けて分析しました。


喫煙が運動の虚血性心疾患予防効果を減少させる可能性

 図1では週あたりのスポーツ参加時間が1-2時間程度の人を基準とした時の、虚血性心疾患死亡の起こりやすさを喫煙状況別に示しています。

【図1】スポーツ時間および喫煙と虚血性心疾患死亡
-Cohort study among 76832 residents-


 スポーツ参加時間と虚血性心疾患死亡リスクとの関係を見ると、現在喫煙なしの人(喫煙経験なしの人および過去喫煙ありの人)では、スポーツ参加時間が週1-2時間程度の人に比べて、スポーツ参加時間が週5時間以上の人では虚血性心疾患死亡のリスクが50-80%低くなりました。 一方、現在喫煙ありの人では、虚血性心疾患死亡のリスク低下は明らかではありませんでした。


今回の研究の意義 -禁煙の重要性-

 運動をすると虚血性疾患の予防につながるということは広く知られており、私たちの過去の研究でもその有効性が示されています。しかしながら、今回の研究では、運動による虚血性心疾患の予防効果は非喫煙者のみで見られ、現在喫煙者では認められませんでした。喫煙はそれだけでも虚血性心疾患のリスクになりますが、それと同時に、運動の虚血性心疾患予防効果をも減少させることが示されました。


 運動は
1)血圧値を低下させる
2)インスリン感受性が上昇する
3)HDL-コレステロール値を上昇させる
4)血管内皮細胞機能を改善させる
といったいくつかの効果をもたらすことで、虚血性心疾患を予防すると考えられていますが、


 一方で、喫煙は
1)高血圧を発症させる
2)インスリン感受性を低下させる
3)HDL-コレステロール値を低下させる
4)血管内皮細胞の機能を障害する
などの悪影響を及ぼすために虚血性心疾患につながると考えられています。


 これらの相反する影響を持つために、喫煙者では運動の虚血性心疾患予防効果が減少すると考えられます。また、喫煙者では虚血性心疾患予防に必要な強度の運動を行うことが出来ないために、運動の予防効果を得られない可能性があります。


 運動による虚血性心疾患の予防効果を効果的に得るためには、喫煙者はまずは禁煙することが重要であると今回の研究は示しています。

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