血清中植物由来エストロゲン活性物質と前立腺がんの危険度

小笹晃太郎


 1988年から90年に生活習慣の質問票にお答えいただいて血液をご提供いただいた14,105人の男性の人たちから、 1999年末までに前立腺がんに罹られた(亡くなった方を含みます)52人の方と、それらの人と年齢と居住地域を合致させて適切に選んだ対照の方(前立腺がんでない方)151人とについて、保存血清中の植物由来エストロゲン活性物質(植物エストロゲン)の濃度を比較しました。

 公表雑誌:日本癌学会誌(Cancer Science) 95巻、1号、65-71頁、2004年。日本疫学会誌(Journal of Epidemiology) 15巻、増刊2号、196-202頁、2005年。


植物エストロゲンとは何か?

 主に大豆に含まれるイソフラボン類と呼ばれる物質は、弱い女性ホルモン作用を持つことから、植物エストロゲンとも呼ばれています。

 本研究では、主な植物エストロゲンである、ゲニステイン、ダイゼイン、エクオールを測定しました。


 エクオールは、腸内細菌叢でダイゼインから産生されますが、その産生能力は個人差が大きいとされています。前立腺がんは、性ホルモンと関連するがんで、従来より、女性ホルモンの働きをする薬や男性ホルモンの働きを押さえる薬が治療に使われてきました。


 一方、日本人や東洋人は欧米人に比べて前立腺がんになりにくいことが知られており、その理由として、日本人や東洋人の大豆の摂取量が欧米人よりはるかに多いこと、すなわち植物エストロゲンの摂取量が多いことが関連するのではないかと考えられてきました。このほか、植物エストロゲンは、女性の乳がんなど性ホルモンが関連する病気に影響を与えているのではないかと考えられています。


血液中の植物エストロゲン濃度が高いほど前立腺がんになりにくい

 図は、血液中のゲニステイン、ダイゼイン、エクオールの濃度と、前立腺がんになる危険性との関係を示しています。血液中の濃度を3段階に分けて、一番低い区分の人の危険性を1としたときの、他の区分の人の相対的な危険性を示しています。いずれも、いちばん高い濃度の区分の人は、一番低い区分の人(エクオールは非産生者)に比べて、前立腺がんになる危険性が少なくなり、約3~4割くらいまで低下しています。

 なお、あわせて測定した男性ホルモンや性ホルモン結合蛋白という物質との関係から、植物エストロゲンは、人間が本来持っている内因性の性ホルモンとは関係なく(独立して)作用すると考えられます。

【図1】前立腺がんリスク

植物エストロゲン濃度相互の関連や食品摂取との関連

 植物エストロゲン相互の濃度の関係は、もともと大豆に由来するものですので、ゲニステインをダイゼインはよく相関しています。エクオールはダイゼインから代謝産生されたものですが、この産生能が個人的にかなり異なるために、ダイゼインとゲニステインとの相関はそんなに強くありません。


 一方、みそ汁や豆腐などの大豆製品を多く食べる人ほど、これらの植物エストロゲンの血液濃度が高いことも示されています。ただ、個々の食品の摂取頻度と前立腺がんのなりやすさとの関連は、この結果で示された血液中の植物エストロゲンと前立腺がんとの関係より弱くなっています。おそらく、食品の摂取頻度を問われても正確に思い出しにくいことや、大豆関連のいろいろな食品から摂取された植物エストロゲンの総量が効果を示していることによるのだろうと思われます。なお、納豆については、本研究では調べられていないのが残念です。

【図2】植物エストロゲン濃度相互の関連

【図3】植物エストロゲン濃度と食品摂取との関連

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