私達は1988年から1990年にかけて、全国45か所で11万人以上の人達に御協力をいただき生活習慣に関するアンケート調査を行いました。そして、約10年後の1999年末までの観察期間中にがんにかかられたかどうかを調べ、糖尿病と関連するがんの部位に関する検討を行いました。
研究の対象となった方々は、40歳から79歳までの男性23,378人、女性33,503人です。
観察期間中にがんに罹患した方は男性1,948人、女性1,360人でした。詳しい結果はAsian Pacific Journal of Cancer Prevention誌(2006年7巻253-259ページ)に掲載されています。
ここに主な結果を問いQuestion & 回答 Answer形式で示します。
Q1:がんに罹患した人のうち糖尿病であった人はどのくらいいたのでしょうか。
A:糖尿病であった人は、がんに罹患した男性1,948人中153人(7.9%)、女性1,360人中62人(4.6%)でした。当初、糖尿病であった方は男性1753人(7.5%)、女性1554人(4.6%)でしたので、糖尿病の方がそうでない方にくらべがんになりやすいという結果ではありませんでした。
Q2:糖尿病があると、罹患が多くなるがんはありましたでしょうか。
A:年齢、喫煙、飲酒、Body Mass Index(肥満の指標・BMI:体重kgを身長mの2乗で割った値)で調整し、さらに追跡開始後2年未満にがんに罹患した人を除いて、糖尿病によるがん罹患リスクを計算しました。その結果、男性では糖尿病のない人とくらべて、糖尿病がある場合には肝臓がんの罹患リスクが約2.1倍、女性では約2.6倍と高くなることがわかりました。また、女性では糖尿病があると逆に、胃がんの罹患リスクが低下する結果となりました。その他の臓器(結腸、直腸、胆のう、すい臓など)別の検討では、統計学的に有意な差は得られませんでした。

結語:
糖尿病があると男女とも、肝臓がんの罹患リスクが高くなることがわかりました。このことは、他の疫学研究の報告と一致しています。しかし、今回観察された糖尿病がある女性の胃がん罹患リスク減少については、今後さらなる検討が必要です。また、今までに糖尿病の方はそうでない方に比べがんになりやすいという報告もあり、他の臓器についても糖尿病との関連について引き続き研究を行うことが必要です。