既往歴と肝がん死亡リスク

柴田彰


 日本では、肝がん発生の主要なリスク要因は、C型及びB型肝炎ウイルス感染で、これらのキャリアの方の一部が、慢性肝炎の状態となり、その後肝硬変、肝がんに移行すると考えられています。この他にも多量飲酒によりアルコール性の肝硬変になり、その後、肝がんに移行するという場合もあります。このように肝炎、肝硬変等、肝疾患の既往は、肝がん発生と密接に関連しているわけですが、最近、肝疾患以外の疾患、例えば、糖尿病と肝がんとの関連も指摘されています。


 そこで、JACC Studyのデータを用いて、糖尿病を含めた既往歴と肝がんとの関連を検討し、その結果を雑誌に発表しましたので(Kurume Medical Journal, Vol. 50, 109-119, 2003)、その概要をご紹介します。


 解析対象者は、1988年~1990年にJACC Studyに参加された、40歳~79歳までの男46,465名、女64,327名、計110,792名です。既往歴については、JACC Studyの質問票に含まれたがんを除く主要な八つの既往歴(脳卒中、高血圧、心筋梗塞、腎臓病、胆石・胆嚢炎、糖尿病、胃・十二指腸潰瘍、結核・肋膜炎)を取り上げました。


 既往歴の有無は調査時の自己申告の結果をそのまま用いています。また、肝がんによる死亡の有無は1999年末までの追跡調査の結果を用いました。


 各既往歴による肝がん死亡に対する影響の強さは、既往歴が無かった人の肝がん死亡の危険度を1としたとき、既往歴があった人は何倍、危険度が高くなるか(相対危険度)で表しています。既往歴以外にも性や年齢は肝がん死亡に影響を与えると思われますので、解析は性(男、女)、年齢(40-59歳、60-79歳)別に行いました。更に、肝疾患の既往があるとは肝がん死亡の危険度が増しますので、肝疾患既往歴(具体的な病名は問いません)が無かったと申告した対象者についての結果のみを以下に述べます。


糖尿病のある人は肝がん死亡のリスクが増大する

 若年群(40-59歳)では、既往歴を有する者は男女とも高齢群(60-79歳)に比べて少なく、また肝がんによる死亡も少ないため、精度の高い推定はできませんでした。それでも、男性では、高血圧(3.14倍)、糖尿病(4.17倍)、女性では胃・十二指腸潰瘍(4.33倍)で、調査時に既往歴が無かった人に比べ既往歴のあった人では統計学的に危険度が高まる事が示唆されました。一方、高齢群では、男性で胆石・胆嚢炎(2.58倍)が、女性で糖尿病(6.16倍)が肝がん死亡の危険度を高める事が認められました。


 今回の予備的解析の結果、最近の論文で肝がんとの関連が示唆されている糖尿病が、肝がん死亡の危険度を高める既往歴として、男女共通に認められた事は非常に興味深いですが、年齢群別では、男性は若年群で、女性は高齢群という違いがありました。男女別、年齢群別のリスクの差が何に起因するかは、今後さらに検討をする必要があると考えられます。

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