血清中のヒートショックプロテイン70(Hsp70)と肺がん死亡との関連

鈴木康司


 慢性炎症は発がん過程において重要な役割を果たしていると考えられています。ヒートショックプロテイン70(Hsp70)はタンパク質の構造を維持する作用があり、熱などのストレスがあると誘導され、細胞を保護するために働きます。近年、Hsp70が抗細胞死作用や抗炎症作用を有していることが示唆されています。またC反応性タンパク(CRP)は炎症時に血中に増加するタンパク質です。近年CRPは高感度測定が可能となり、 健常者のわずかな濃度でも検出できるようになりました。 JACC Study をはじめとする多くの疫学研究で軽度のCRP上昇でも心血管疾患発症リスクの増加と関与していることが報告されています。


 喫煙は肺がんの危険因子の一つですが、喫煙者では非喫煙者に比べ体内に炎症が生じた際に増加してくる炎症マーカーの値が高いことが 知られており、喫煙と肺がんの関連に喫煙による慢性炎症が関与していると考えられます。 しかし肺がんと炎症マーカーとの関連について調査した疫学研究は多くありません。 そこで炎症マーカーである血液中のHsp70およびCRPの濃度と肺がんリスクとの関連について調べ、 専門誌(Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention 15巻1733-1737ページ 2006年)に発表しましたので、 その概要をご紹介します。 (Prev Med誌 2012;54:32-37掲載)。


血清中のHsp70値の高い人では肺がんの死亡の危険度が増加

 血清中のHsp70値の高い人では肺がんの死亡の危険度が増加 今回の検討では、JACC Studyの参加者で、1988~1990年に血清を研究用にご提供いただいた方のうち、1999年までに肺がんで死亡されたグループ(症例群)とその比較対照群(対照群)について、保存血清を用いてHsp70とCRPの測定を行いました。対照群の血清Hsp70とCRPの分布がそれぞれ4等分になるようにグループ分けを行い、肺がん死亡リスクを性、年齢、喫煙習慣、飲酒習慣、BMIの影響を考慮して検討しました。


 図1に血清Hsp70と肺がん死亡との関連を示します。 男女合わせた解析では、Hsp70の濃度が高いと肺がん死亡リスクが高い傾向を認めました。性別に解析した場合、 男性ではHsp70の濃度が最も低い群に比べ最も高い群では約2.5倍肺がんのリスクが高くなりました。 血清CRP値は肺がんと明らかな関連を認めませんでした(図2)。


 アメリカの調査では血清中のCRP濃度が高いことは肺がんのリスク因子であることが報告されています。 日本人とアメリカ人ではCRP濃度の分布に違いがあり、日本人はアメリカ人よりCRP濃度が低いことが知られており、 このことが結果に影響しているのかもしれません。 今回の結果から血清Hsp70の濃度が高いことは肺がんの発生に関わっている可能性が示唆されましたが、 女性の症例が少ないこともあり、さらなる調査が必要であると考えます。

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