睡眠時間と死亡との関係

玉腰暁子


 生活習慣とがんなどの病気の発生や死亡との関係を検討し、日本人の生活習慣病を予防するための方法を明らかにするため、私たちはコホート研究と呼ばれる研究を行っています。コホート研究を行うためには、多くの皆さまの協力をいただき、長い時間をかけて、病気の発生や死亡状況を観察する必要があります。現在、全国45地区約11万人の方々にご協力をいただき、1988~90年にアンケートにより集められた情報を基に、研究を行っています。今回、約10年間追跡をした結果、睡眠時間の長さと死亡率との間に興味深い関係を見出し、専門誌に発表しましたSleep 27巻 51-54ページ 2004年)。その概要を報告します。


睡眠時間が7時間の人の死亡率が一番低い

 アンケートでお尋ねした平日の睡眠時間ごとに約10年の間に死亡した人の割合を比べました。図は、睡眠時間が7時間(6.5-7.4時間)の人を基準としたときの死亡しやすさをそれぞれの時間で計算した結果を示しています。睡眠時間は年齢の影響を大きく受けますので、計算上、その影響を除くようにしています。すると、睡眠時間が長い人でも短い人でも7時間の人に比べると死亡しやすいことがわかりました。その程度は、4時間未満(4.4時間まで)の睡眠時間では、男性で1.62倍、女性で1.60倍、また10時間以上(9.5時間以上)の場合には男性で1.73倍、女性で1.92倍となりました。

【図1】年齢を調整した睡眠時間の死亡リスク


心理要因などを加味すると男性では睡眠時間が短いことはリスクではなくなるが…

 睡眠は生活習慣の1つに挙げられています。しかし、睡眠時間というのは、実は自分の好みだけで選んでいるものではなく、仕事や家庭などの社会環境、ストレスなどの精神的な健康状態、また病気の影響も受けていると考えられます。そこで、うつ症状、自覚的ストレス、喫煙や飲酒、教育歴や既往歴を計算に入れ、さらに(何か重篤な病気にかかっていたために調査時点の睡眠時間が影響を受けている人を除くために)調査したときから 2年以内に死亡した方を除いて計算をしてみました。


 その結果、男性では短い睡眠時間は死亡のリスクを上げないことがわかりました。しかし、女性では、4時間未満(4.4時間まで)の睡眠時間の人は7時間の人と比べ2.0倍のリスクとなっています。また、7時間より長い睡眠時間は、男性でも女性でもやはり死亡リスクを上げています。

【図2】2年以内の死亡を除外、かつ多変量で調整した睡眠時間の死亡リスク


 睡眠時間が長くなっても短くなっても死亡しやすくなるという結果は、アメリカの研究でも報告されています。

 睡眠時間が短い場合には、十分に休養がとれず、身体に無理がたまります。また、睡眠時間が短くなると高血圧や糖尿病といった慢性疾患のリスクが上昇することが知られています。その結果として、睡眠時間が短い方々で高い死亡率が観察されたと考えています。


 しかし、さまざまな要因をあわせて考えたところ、男性では、睡眠時間が短い場合には死亡リスクは上昇しないことがわかりました。背景にある病気や不健康の結果として睡眠時間が短くなっているだけではなく、男性では女性に比べて仕事をしている人が多いことから、何か仕事に関係する要因が睡眠時間を短くしている可能性もあります。しかし残念ながら、今回の研究だけで結論を出すことはできません。

 睡眠時間が長い場合には、睡眠時間が長くなるほど死亡リスクが上昇することがわかりました。もしかすると本人も気づいていない病気が潜んでいて、そのために睡眠時間が長くなり、また死亡しやすくなっているのかもしれません。今までの研究でも睡眠時間が長くなると死亡しやすくなるという結果が得られているものが多いのですが、どうして睡眠時間が長いと死亡しやすくなるのかは明らかになっていません。それを明らかにするためには、生物学的なメカニズムに迫る動物実験などが必要と思われます。


 今回の研究で、1日の睡眠時間が7時間(6.5-7.4時間)の人は他の人たちに比べて死亡リスクが低いことがわかりました。しかし、睡眠時間はその人の暮らし方のさまざまな影響を受けています。ですから、睡眠時間が短い人や長い人が睡眠時間を7時間にすれば死亡しにくくなるのかどうかはわかりません。 7時間寝ることが本当に死亡の危険性を減らすのかどうかを調べようと思ったら、いろいろな睡眠時間の人を集めてきて、半分のグループはそのまま、半分のグループでは睡眠時間を7時間にしてもらい、長い間観察して死亡状況を調べることになります。


 しかし、現時点ではそこまでするほど確実に誰にとっても7時間の睡眠がよいのだと考える根拠はありません。それよりもまず、どうして睡眠時間が短かったり長かったりすると死亡しやすくなるのか、というメカニズムの研究や、睡眠時間に影響を与えるものは何なのかという社会学的な研究が必要と思われます。

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