社会的役割と総死亡

玉腰暁子


 社会の中で私たちは、それぞれ役割を担いながら生活しています。様々な役割をこなさなくてはならない立場はストレスフルですが、 一方でやりがいや社会とのつながりと関係しています。日本では、婚姻率、出生率とも低下し、1人の女性が生涯で産む子どもの数に 相当する合計特殊出生率は1990年代半ばからは1.5を切る値となっています。逆に働く女性は増加しており、3歳以下の子どもを持ちながら 働いている女性は40%近くに上ります(2009年)。 このような日々の役割は、人々の健康にも関連すると考えられます。そこで、JACC Studyのデータを用い、 配偶者、親、職業人としての役割があることとその組み合わせが総死亡とどのように関連するのかを検討し、 専門誌に報告しました(Eur J Public Health. online先行掲載)。


役割があることは死亡リスクを低下させる

 今回の解析では、配偶者の有無、子どもの有無、仕事の有無にお答えいただいた約76000人の方を平均15.7年追跡した情報を用いました。 配偶者、親、職業人としての役割がある人を基準にした場合、それぞれの役割がないことは、 わずかですが死亡リスクの上昇に関連していました。 さらに3つの役割についてありの数を足した場合(3役割から0役割まで4つに区分)、 すべての役割を担っているグループに比べ、役割数が減るほど死亡リスクは上昇し、 いずれの役割もないグループは男性で1.66倍、女性で1.57倍のリスクを示しました。 親としての役割を除き、役割がないことによる死亡リスクは、女性より男性で高い結果でした。


年齢群で関連の程度が異なる

 研究開始時の年齢で全体を2分して役割の数と死亡の関連をみると、男女とも年齢の若いグループ(40-64歳)のリスクが年齢の高いグループ(65-79歳)よりも高くなりました。高齢女性(65-79歳)では、役割がないことは死亡リスクと有意に関連せず、すべての役割がない場合でのみややリスクが高くなるという結果でした。


 今回の結果から、社会的な役割があることは健康によい影響を与えている可能性が示唆されました。 役割を通じた社会とのつながり、生きがいなどが関連しているものと思われます。 一方で、日本社会では主に女性が家中の仕事を担うことが多いことから、 中年期の女性では複数の役割をこなすことが負担になっている可能性もあります。 日本社会全体において家庭、仕事のあり方が変化しつつある現在、 社会的な役割の有無だけでなくその質も含めた研究が今後も必要と考えられます。

【図1】それぞれの役割の有無と死亡リスク

【図2】役割の数と死亡リスク

【図3】役割の数と死亡リスク(年齢群別)

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