可溶性Fasとがん死亡との関連

玉腰暁子


 人の身体は細胞からできていますが、それらの細胞はある時期が来ると自然に死滅する(アポトーシス)ようにプログラムされています。そのプログラムに関係し、細胞死を誘導する仕組みの1つとして細胞表面に発現するFasとFasリガンドが知られています。可溶性Fas(sFas)は細胞表面にあるFasが切断され血液中を流れているもので、その役割のすべてはまだ確定されていませんが、Fasに拮抗的に働き、細胞の自然死を阻害する役割があるのではないかと考えられています。


 がん細胞は本来ある時点で死滅すべき細胞が無限に増殖することが特徴です。そのために自然死から逃れる仕組みを持っていると考えられますが、その一つとしてsFasを放出し自身の表面に発現している FasがFasリガンドと結合しアポトーシスを起こすことを防御している可能性が考えられます。


 今までの研究で、血液系のがん、卵巣がん、腎がんなどの患者では健康人に比べsFas値が高いこと、外科的にがんを切除するとsFas値が低下すること、また同じ部位のがんでもsFas値が高い患者で予後が悪いこと、などが報告されています。


 今回、JACC Studyのデータを用いて、がんで亡くなられた方とその他の方を比較し、がんと診断される前のsFas値について検討し、専門誌に報告しました。(Int. J. Cancer2008年: 123, 1913-1916)


がんと診断される前でもsFas値が上昇している

 今回の検討では、JACC Studyの対象者のうち、血清が保存され、かつ1997年までにがんで死亡された798名と性・年齢・地区をあわせた対照2353名を解析対象としました。sFas値はELISA法により測定し、対照者のsFas値の分布がおおよそ四等分になるようグループ分けしてがんで死亡するリスクを検討しました。


 その結果、もっともsFas値が高いグループは低いグループに比べ1.81 (95% CI; 1.40-2.34)倍がんで死亡する危険性が高いことがわかりました。この結果は、がんで死亡される時期が血液を採取してから早いか遅いか(1994年で区切ってみました)でも変わらず、sFas値が高いほどリスクが高いことがわかりました。


sFas値が高い人はがんのハイリスクの可能性がある

 今回の結果から、その後にがんで亡くなる方の血清中では、がんと診断される前でもsFas値が他の方より高いことが示されました。このことは、sFas値を測定することで、がんのハイリスク者を同定することができるかもしれないことを示しています。


 ただし、がんが長い時間をかけて細胞増殖を繰り返した上で診断できる状態にいたることを考えると、本当にがんになる前に見つけるというよりは、まだ他の方法で診断できないレベルでがんの可能性を示唆することができる、ということかもしれません。また、すべての部位のがんでsFas値が高くなるわけではないようです。

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