禁煙後の男性肺がん死亡リスクの減少

若井建志


 喫煙が肺がんの危険性を高めること、また禁煙することでその危険性を減らすことができることはよく知られています。それでは禁煙して何年したら、もともと喫煙をしていない場合と同じレベルまで肺がんで死亡する危険性が減るのでしょうか。また肺がんの危険性を減らす効果は、禁煙をする年齢によってどのように違うのでしょうか。


 こうした疑問に答えるため、1988~90年に全国45地区でアンケートにより情報を集め、研究にご協力いただいた方を約8年間追跡したデータを分析しました。詳しい結果は学会誌に発表しておりますが(Japanese Journal of Cancer Research 92巻 821-828ページ 2001年)、ここではその概要をまとめました。


肺がん死亡危険度が非喫煙者並みになるには15-20年が必要

 今回は喫煙者の多い男性に限定して分析しました。アンケートでおたずねした喫煙習慣をもとに、もともと喫煙しない場合(図の「吸わない」―非喫煙者)を1とした肺がん死亡の危険度を、現在喫煙者(「吸っている」)、禁煙者(「やめた」)について計算しました。とくに禁煙者については、禁煙してからの年数別に危険度を計算しました。


 すると肺がんで死亡する危険度は、現在喫煙者ではもともと喫煙しない人の5.16倍高いことがわかりました。禁煙者では禁煙後の年数が増えるにつれて危険度は減りますが、禁煙後10-14年でもなお非喫煙者の約2倍の肺がん死亡リスクがあり、危険度が非喫煙者並みになるためには15-20年が必要であるという結果でした。

【図1】禁煙後の年数別にみた肺がん死亡危険度(男性)


早く禁煙した方が肺がん死亡率を減らす効果は大きい

 さらに禁煙者について、禁煙した年齢別にその後の肺がん死亡率(人口10万人あたりの年間肺がん死亡者数)を推計し、喫煙を続けた場合やもともと喫煙しない場合と比較してみました。図にみられるように、喫煙をしない場合でも年齢とともに肺がん死亡率は上昇していきます (どんな人でも年をとるほど肺がんになりやすいことを示しています)が、喫煙を続けた場合には上昇のスピードがより速くなります。


 60歳までに禁煙すると、それ以降も喫煙を続けた場合の死亡率の線を離れ、もともと喫煙をしない人たちの死亡率の線に近づいていきます。つまり、60歳までに禁煙をすれば肺がん死亡のリスクを減らせることになります。しかし65歳に禁煙をした場合の死亡率の推移を示す線は、そのまま喫煙を続けた場合にかなり近く、 70歳や75歳に禁煙した場合の線は喫煙継続者とあまり変わらなくなっていました。すなわち、早く禁煙した方が肺がん死亡率を減らす効果は大きく、70歳以降の禁煙では効果は小さいという結果です。

【図2】禁煙した年齢別にみた肺がん死亡率の推移(男性)


 以上、喫煙者の肺がん死亡危険度が非喫煙者と同じレベルにまで下がるためには長い年月を要すること、禁煙によって肺がん死亡率を減らす効果は早く禁煙した方が大きいことから、肺がん予防のためには一刻も早く禁煙することが勧められます。ただし、たとえば心臓病のように、がんよりも早く禁煙の効果があらわれる病気も多いので、禁煙をするのに遅すぎるということはありません。


 本研究では、70歳以降の禁煙では肺がん死亡率を減らす効果は小さいという結果が得られました。しかし、これはあくまでも肺がんに限った話です。実際、他の研究では70歳に禁煙すれば75歳以降の死亡率がかなり低下する、すなわち長生きできることが示されています。

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