血液中インスリン様成長因子、インスリン様成長因子結合タンパク質-3と 肺がん死亡リスク

若井建志


 インスリン様成長因子(以下IGFと略します)は、さまざまな組織で作られ細胞増殖を刺激することから、がんの発生を促進するのではないかと注目されています。とくにインスリン様成長因子-I(IGF-I)は、これまでの研究で血液中の濃度が高いほど、前立腺がん、乳がん、大腸がんのリスクが高くなることが報告されています。しかし肺がんについての研究はまだ少なく、一致した結果は得られていません。


 そこで、血液中のIGF-I、IGF-II、および血液中でそれらと結合しているインスリン様成長因子結合タンパク質-3(IGFBP-3)と肺がんとの関係を調べるため、JACC Study参加者の中で検討を行いました。その結果を学会誌に発表しましたので(Japanese Journal of Cancer Research 93巻 1279-1286ページ 2002年)、概要をご紹介します。


血液中のIGF-I濃度が高い人では肺がん死亡の危険度が増加。IGF-IIについてはむしろ逆の関係

 今回の検討では、JACC Study参加者で1988~1990年に血液(血清)を研究用にご提供いただいた方のうち、 1997年までに肺がんで死亡されたグループ(症例群)と比較対照グループ(対照群)について、冷凍保存しておいた血清中のIGF-I、 IGF-IIおよびIGFBP-3の濃度を測定しました。対照群がほぼ4等分になるよう、血清濃度によって症例群と対照群を4グループに分け、血清濃度が最も低いグループの肺がん死亡危険度を1とした時の、他の3グループの肺がん死亡危険度を計算しました。


 図1は血清IGF-I、IGF-II濃度についての結果です(結合タンパク質IGFBP-3の影響を考慮しました)。血清IGF-I濃度が最も高いグループでは、最も低いグループと比べ、肺がん死亡危険度が1.74倍高くなりました。一方、IGF-IIについてはむしろ逆の関係で、血清濃度が高い方が肺がん死亡危険度はむしろ低いという結果でした。

【図1】血清IGF-I、IGF-II濃度と肺がん死亡危険度


血液中のIGFBP-3濃度が高いと肺がんの死亡リスクは低い

 IGF-Iと同様に、IGFBP-3についても血清濃度が最も低いグループの肺がん死亡危険度を1とした時の、他の3グループの肺がん死亡危険度を計算しました。図2のように血清IGFBP-3濃度が最も低いグループと比べ、より高いグループでは肺がん死亡危険度が0.54~0.67倍と低い、という結果でした。

【図2】血清IGFBP-3濃度と膵がん死亡危険度


 血清IGF-I濃度が高い人で肺がん死亡の危険度が増加していることは、IGFががん発生を促進するという仮説と矛盾しない結果です。またIGFBP-3は血液中でIGF-Iと結び付き、IGF-Iの作用を抑えると考えられることから、血清IGFBP-3濃度が高いグループでは低いグループよりも肺がん死亡の危険度が低いことも説明がつきます。


 一方、IGF-IIにも細胞増殖を促進する作用があることと、血清IGF-II濃度が高い人で肺がん死亡の危険度が低いことは矛盾しているといえます。しかし前立腺がんや乳がんでは、血液中のIGF-II濃度が高い方ががんにかかる危険性が低いとする研究もありますので、 IGF-IIについては今後さまざまな種類のがんについて、いろいろな集団で検討することが必要と考えられます。

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