脂肪・脂肪酸摂取と乳がんのリスク ― 日本における追跡調査から ―

若井建志


 脂肪のとり過ぎが乳がんの危険性を高めることは古くより疑われてきました。しかしコホート研究では一致した結果は得られていません。その理由として、これまでのコホート研究の多くが脂肪をとる量の多い欧米での研究であり、研究対象者の多くが乳がんの危険性を高めるのに十分な量の脂肪をとっているために、脂肪が乳がんのリスクに及ぼす影響がわかりにくかった可能性が指摘されてきました。


 日本は脂肪をとる量が欧米より比較的少ないので、脂肪摂取と乳がんリスクとの関係がわかりやすい可能性があります。一方、魚に多く含まれる脂肪の成分である長鎖n-3脂肪酸、とくにEPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)が乳がんの危険性を低下させる可能性が近年注目されています。そこで1988~90年に、全国22地区でアンケートにより食事についての情報を集め、研究にご協力いただいた女性の方を約7年半追跡したデータを分析しました。詳しい結果は学会誌に発表しておりますが(Cancer Science 96巻 590-599ページ 2005年)、ここではその概要をまとめました。


脂肪をとる量が多い女性でも乳がんの危険度増加はみられませんでした

 アンケートで集めた食事についてのデータをもとに、脂肪のとる量により、対象者を人数がほぼ同じ4つのグループに分けました。その上で、脂肪をとる量がもっとも少ないグループを1とした乳がんにかかる危険度を、脂肪摂取量の他の3グループについて計算しました。


 図のように脂肪をもっとも多くとるグループ(上位1/4)の乳がん危険度は、とる量がもっとも少ないグループの0.80倍で、脂肪をとる量が多い場合でも乳がんの危険性増加はみられませんでした。

【図1】脂肪をとる量別にみた乳がん危険度


魚に多い長鎖n-3脂肪酸を多くとる女性で乳がんの危険度が低下

 一方、EPA、DHAなど、魚に多い長鎖n-3脂肪酸をもっとも多くとるグループ(上位1/4)の乳がん危険度は、とる量がもっとも少ないグループ(下位1/4)の半分に低下していました。

【図2】長鎖n-3脂肪酸をとる量別にみた乳がん危険度


 以上、脂肪をとる量が多い場合でも乳がんの危険性増加はみられない一方で、長鎖n-3脂肪酸を多くとる女性で危険度は低下していました。今後、今回報告した関係が他のコホート研究などでも確認されれば、長鎖n-3脂肪酸を多く含む魚類をよく食べることが乳がんに予防的に働くことにつながるものとして注目されます。

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