日本における心理要因と乳がんリスクー追跡調査からー

若井建志


 心理要因が乳がん発生に関係するとの考えは昔から提唱されていますが、両者の関係について疫学研究では一致した結果が得られていません。また、こうした疫学研究の多くは欧米で行われていますが、心理要因は文化的な影響を強く受けるため、さまざまな文化的背景を持つ集団での検討が必要です。


 そこで私たちは日本独特の考え方である「生きがい」など、心理的要因と乳がんとの関係を調べるため、1988~90年に全国22地区で心理要因その他のアンケートにご協力いただいた女性の方を、約7年半追跡したデータを分析しました。詳しい結果は学術雑誌に発表しておりますが(Cancer Causes & Control 18巻 259-267ページ 2007年)、ここではその概要をまとめました。


「生きがい」があり、判断が早いと答えた女性で乳がんの危険度低下がみられました

 心理要因についてのアンケートへの答えにもとづき、研究参加者を2つのグループに分けました。その上で、「生きがい」や「はり」をもって生活しているかとの質問に「はっきり言えない」または「ふつう」と答えたグループを1とした場合の「ある」または「非常にある」と答えたグループの乳がんにかかる危険度(相対危険度)を計算しました。同様に、物事の判断は早い方かとの質問に「遅い」または「ふつう」と答えたグループを1とした場合の「早い」と答えたグループの乳がん危険度も計算しました。


 図のように「生きがい」や「はり」があるグループの乳がん危険度はそうでないグループの0.66倍、物事の判断が早いグループの乳がん危険度はそうでないグループの0.56倍となり、「生きがい」がある、あるいは判断が早いと答えた女性で乳がんの危険度低下がみられました。

【図1】「生きがい」、判断の早さと乳がん危険度


腹の立ちやすさや自覚的な精神的ストレスは乳がんリスクと関係がみられませんでした

 怒りを表せないことや自覚的な精神的ストレスが、がんのリスクと関係するという考え方がありますが、今回の検討では図のように、腹が立ちやすいかどうかや、ストレスが多いと感じているかどうかは乳がんリスクとほとんど関係していませんでした。

【図2】腹の立ちやすさ、自覚的な精神的ストレスと乳がん危険度


 以上「生きがい」があり、判断が早いと答えた女性で乳がんリスク低下の可能性が示されました。今回の結果が今後の研究でさらに裏付けられるならば、積極的な生活態度が乳がんの予防に重要な要素になるかもしれません。

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