糖尿病と腎がん死亡のリスク

鷲尾昌一


 日本全国の45の地域で約11万人の方にコホート研究の参加にご協力をいただき、 1988~90年にアンケート調査を行ったJACC study のデータを用いて、日本人における腎がん発症の危険因子を検討しました。今回、約13年間追跡を行った結果、腎がんの危険因子としていくつかの要因が明らかになりました。この結果は日本泌尿器学会の学会誌(International Journal of Urology 14: 349-397, 2007)に掲載されています。


1.腎がんの危険因子としてどのような要因が考えられていますか?

 腎がんは西欧や北欧、北米の国々に多く、アジアでは少ないことが知られています。同じ日本人でもハワイに移住した日本人は日本居住の日本人に比べ、腎がんに罹る人が多いこと、近年日本人においても腎がんに罹る人が増えてきていることから、西洋型の生活習慣などの環境要因が腎がんのリスクになっている可能性があります。

 欧米諸国の研究では、肥満、糖尿病、運動不足が腎がんの危険因子として報告されています。


2.日本人でも糖尿病や肥満は腎がんの危険因子ですか?

 今回の調査の結果では、糖尿病のある人はない人に比べ、腎がんによる死亡のリスクが2.2倍上昇していました。また、肥満人は肥満のない人に比べ統計学的に有意でないものの、腎がんによる死亡のリスクは1.5倍上昇していました。肥満も糖尿病もない人を基準にして、肥満、糖尿病のリスクを検討すると、肥満も糖尿病もない人に比べ、糖尿病の人は腎がんによる死亡のリスクは2.6倍、肥満の人の腎がんによる死亡のリスクは1.7倍とリスクの程度は大きくなりましたが、肥満の腎がんによる死亡のリスクは統計学的には有意ではありませんでした。


 余暇の運動や仕事での活動度が高いことは、統計学的に有意でないものの腎がんの死亡のリスクを下げる方向を示しました(余暇の運動:リスク比=0.75、仕事での活動度が高い:リスク比=0.72)。


3.まとめ

 腎がんで死亡した方は約11万人を13年間追跡しても、66人とわずかでした。このため、研究結果として確定的な結論を出すことは困難で、リスクの上昇や低下を認めたけれども統計学的に有意ではない(はっきりとリスクや予防因子と断定できない)要因もありました。


 しかし、欧米諸国の報告と同様に、日本人においても肥満、糖尿病、運動不足が腎がんのリスクになる可能性が示唆されました。肥満や糖尿病が腎がんのリスクを上昇させるメカニズムとしてはインスリン抵抗性や高血圧の合併などが考えられています。


 今回の調査では腎がんによる死亡が66人と少なかったため、性別と年齢以外の要因の補正は行っていません。これからも研究を継続し、明らかな結果をお示しできるように努力していきます。

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