胃がん家族歴と胃がん死亡との関係

八谷寛


 家族に胃がんの方がいらっしゃると、他の家族の方にも胃がんが起こりやすいことが以前より観察されていました。家族の中にある病気にかかられた方がいる(いた)ことを家族歴ありと言いますが、今回胃がんの家族歴がある人たちが追跡期間中に胃がんによって死亡するリスクについて、約11万人の住民の方々を対象とした大規模なコホート研究によって検討し、専門誌に発表しました (International Journal of Cancer 97巻 688-694ページ 2002年)。その概要を報告します。


胃がんの家族歴は男女とも対象者の約10%に認められた

 対象者の方の父親、母親、兄弟、姉妹それぞれについて、胃がんに罹ったことがあるかどうかをアンケートでお尋ねしました。いずれかの家族に胃がん家族歴がある方は、調査対象者(110,573人)の約10%でした。また、追跡対象者の胃がん年齢調整死亡率は人口10万人あたり、男性99.5人/年、女性33.7人/年で同時期の日本全体の年齢調整死亡率とほぼ同じでした。


胃がん家族歴のある方はない方に比べ、男性で1.6倍、女性では2.4倍胃がんで死亡しやすい

 図は、胃がんによる年齢調整死亡率を家族歴の有無別に示したものです。家族歴の有無ならびに胃がん死亡率は年齢の影響を大きく受けるので、計算上、その影響を除くようにしています。また生活習慣などの交絡因子(注)の影響についても計算上除外すると、男性では家族歴のない方に比べ家族歴のある方は約1.6倍、女性では約2.4倍胃がんで死亡しやすいことが明らかとなりました。さらに家族に2人以上胃がんの方がいらっしゃる場合、胃がんの家族歴のない方に比べて男性では2.3倍、女性では9.4倍もそのリスクが上昇していました。


 (注)交絡因子の例:飲酒と肺がんの関係を調べたところ、飲酒者は飲酒しない人に比べて肺がんが多いという関係が見出されたとします。しかし、飲酒者では喫煙習慣を同時に有することが多く、また喫煙習慣は肺がんの原因と考えられています。そこで、飲酒と喫煙の関係を考慮してもう一度解析し直せば、飲酒と肺がんの関係には変化が見られると考えられます。このような場合、喫煙を飲酒と肺がんの関係における交絡因子と呼びます。疫学研究では、このような交絡因子を考慮することは、真の因果関係を見出すために重要であると考えられています。


家族の誰が胃がんに罹ったかでもリスクが異なる

 図は、家族歴が父親、母親、兄弟、姉妹のどなたにあるかによって胃がん死亡率に違いがあるかどうかを調べたものです。男性では父親に胃がんがある方は家族歴がまったくない人の2.1倍、女性では母親の場合に5.4倍、姉妹の場合に2.9倍、父親の場合に2.0倍とリスクの上昇が観察されました。さらに両親ともに胃がんに罹った方が胃がんで死亡するリスクは、男性でも2.4倍と上昇していましたが、女性では16.9倍と非常に強い関連性が認められました。男女とも同性の家族に胃がん家族歴のあることが胃がんリスクに関係していると言えそうです。


若い女性におけるリスクの上昇が顕著

 一般に、遺伝的素因によって起こるがんは若くして発症することが多いと考えられています。今回の分析を、研究開始時に40歳から59歳までであった比較的若い集団に限定してみたところ、家族歴を有することの胃がん死亡リスクは男性で2.6倍、女性で5.9倍と全体(研究開始時に79歳まで)を対象とした場合に比べて強くなっていました。特に女性では、母親の家族歴は10.5倍、姉妹の家族歴は13.4倍とリスクが高くなっており、若い女性における同性の家族歴は、胃がんのハイリスク要因であると考えられます。


家族歴=遺伝?

 この研究から、胃がんの家族歴のある方は胃がんによって死亡するリスクが高いことが示されました。しかし注意しなければならないのは、家族歴=遺伝ではないことです。家族は食生活をはじめとして生活習慣が共通である場合が多く、もしそのように共通する生活習慣が胃がんのリスクと関連していた場合、家族歴は見かけであり、本当の原因はその生活習慣ということになります。ただ、今回の研究では食生活や緑茶の飲用、飲酒・喫煙といった生活習慣は計算上その影響を除いておりますので、この可能性はあっても少ないと言えます。


 もうひとつはヘリコバクターピロリ菌の感染です。この細菌は、胃がんの原因のひとつであると考えられており、かつ家族内で集積する傾向もあります。したがってこの細菌感染が今回認められた家族歴と胃がんとの関連の一部を説明している可能性はあると言えるでしょう。


 しかし今回、比較的若年の女性で家族歴と胃がんリスクの非常に強い関連が認められたことから、少なくとも若年女性の胃がんの発症には遺伝素因が関与している可能性が高いであろうと、我々は考えております。


胃がんを予防するためには

 この研究は、胃がんの予防対策を具体的に調べたものではありませんが、胃がんを予防するために参考となる知見がいくつか得られたと考えております。


 予防には、胃がんにならないこと(これを一次予防と呼びます)と、胃がんを早期に発見して治療すること(これを二次予防と呼びます)の2種類があります。一般に飲酒や喫煙、塩蔵食品等は胃がんのリスクを上げ、柑橘系果物や緑黄色野菜の摂取は胃がんリスクを下げることが報告されています。


 したがって一次予防としては、家族歴のある方は特に、こうした胃がんの発症に関係する生活習慣に注意する必要があると言えるでしょう。次に、二次予防として、家族歴のある方はより積極的に胃がん検診を受診し、早期発見・早期治療に努めるべきかもしれません。

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