胃がんの家族歴とピロリ菌感染を同時に有する女性は 両者ともない女性に比し約5倍胃がんに罹りやすい

八谷寛


 家族に胃がんに罹った方がいらっしゃることを、「胃がんの家族歴がある」と言います。私たちは今までに、約11万人の住民の方々を対象としたこの大規模コホート研究(JACC Study)によって、胃がんの家族歴がある人たちはない方にくらべ、胃がんによって死亡するリスクが高くなることを報告してきました。


 では、家族歴があると、なぜ胃がんに罹りやすいのでしょうか。ここで、注意しなければならないのは、必ずしも“家族歴=遺伝”ではないことです。家族は食生活をはじめとして生活習慣が共通である場合が多いため、このように共通する生活習慣が胃がんのリスクと関連していた場合、見かけ上、家族歴はリスクとなりますが、本当の原因はその生活習慣ということになります。


 もうひとつはヘリコバクターピロリ菌の感染です。この細菌は、胃がんの原因のひとつであると考えられており、かつ家族内で集積する傾向もあります。したがってこのピロリ菌感染が家族歴と胃がんとの関連の一部を説明している可能性はあると言えるでしょう。


 今回、JACC Studyの参加者のうち研究開始時に血液(血清)をご提供頂いた方々の中から、1997年までに胃がんに罹ったグループ(患者群)と比較対照グループ(対照群)を選び出し検討しました(このような研究をコホート内症例対照研究といます)。その結果、胃がんの家族歴及びピロリ菌感染と胃がんリスクとの関連について興味深い結果を見出し、専門誌に発表しました(British Journal of Cancer 91巻 929-934ページ 2004年)。その概要を報告します。


ピロリ菌感染の判定

 ピロリ菌に感染しているかどうかを判定するには、胃カメラで胃の粘膜を採取して詳しく調べる方法、尿素を含む試薬を飲んでから息のサンプルを調べる方法、血液中の抗体を調べる方法などが一般的です。今回は、冷凍保存しておいた血清中のピロリ菌抗体からピロリ菌感染の有無を判定しました。ピロリ菌感染は男性の患者群で86.7%、対照群で79.7%、女性の患者群で90.7%、対照群で78.6%に認められ、男女とも患者群の感染率は対照群に比し高率でした。一方、対照群であっても男女とも8割近くの方がピロリ菌に感染していることも明らかになりました。


女性ではピロリ菌感染の有無に関係なく、家族歴を有することは胃がんリスク上昇と関連

 図1に示したように、胃がん家族歴もピロリ菌感染もない女性(図では緑色で示されています)が追跡期間中に胃がんにかかるリスクを1とした時に、ピロリ菌感染はないが家族歴のある女性(水色)のリスクは1.8でした。さらにピロリ菌感染があり家族歴のない女性(紺色)の罹患リスクは3.0、ピロリ菌感染と家族歴の両方を有する女性(赤色)では5.1 とさらに上昇していました。食生活や緑茶の飲用、飲酒・喫煙といった生活習慣は計算上その影響を除いておりますので、女性の胃がんの発症には、ピロリ菌感染と遺伝素因の両者が関与していることを示した結果であると、私たちは考えております。

【図1】ピロリ菌感染と胃がんの家族歴の組み合わせによる胃がん発症リスク(女性)


 ところが、男性ではこのような関連はまったく認められませんでした。なぜ、男性では家族歴と胃がん罹患リスクに関連が認められなかったのかはよくわかりません。胃がんができた場所や組織型などについて詳しく分析していないこと、男性における家族歴の自己申告が不正確であるかしれないこと等をその理由として想定していますが、こうした問題点を解決するための更なる研究が必要と言えるでしょう。

【図2】ピロリ菌感染と胃がんの家族歴の組み合わせによる胃がん発症リスク(男性)


胃がんを予防するためには

 胃がんの家族歴とピロリ菌感染を同時に有する女性は、両者ともない女性にくらべると約5 倍胃がんに罹りやすいことが、今回の研究を通して明らかになりました。すなわち、ピロリ菌感染と家族歴の有無を調べることは、将来の胃がん罹患リスクの推定に少なくとも女性においては有効と言えると思われます。


 この研究は、胃がんの予防対策を具体的に調べたものではありませんので、リスクの高い女性に対してピロリ菌除菌療法を行うことが胃がん予防に有効かどうかは更なる研究によって明らかにする必要があるでしょう。


 一般に飲酒や喫煙、塩蔵食品等は胃がんのリスクを上げ、柑橘系果物や緑黄色野菜の摂取は胃がんリスクを下げることが知られています。リスクの高い方では、こうした胃がんの発症に関係する生活習慣に特に注意する必要があると言えるでしょう。また、胃がんは早期に発見すれば予後のよいがんです。家族歴のある方、ピロリ菌感染のある方では特に二次予防として、積極的に胃がん検診を受診し、早期発見・早期治療に努めることも重要と考えられます。

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