血中因子と胃がん発症リスク -コホート内症例対照研究による検討-

八谷寛



1)胃がんの発生要因に関するコホート内症例対照研究

 胃がんを発症する数年前から血液中にその濃度が上昇するような因子を同定できれば、発がんメカニズムの解明はもとより、その物質を用いた予防・治療法の開発など臨床的・公衆衛生学的な見地からも有用であると考えられます。


 そうした、新たな血清因子の同定のために1997年までに胃がんにかかったり、死亡したりした人210人とそれと比較するための対照者410人の研究登録時(1988年から90年)に保管した血清(血液の一成分)を2000年に取り出し、インスリン様成長因子(Insulin-like Growth Factor) I, II, およびその結合タンパク(Binding Protein 3)(以下それぞれIGF-I,IGF-II,IGFBP-3)、形質転換増殖因子ベータ(Transforming Growth Factor β -1:TGFb1)、可溶性(Soluble)Fasリガンド(sFas)、スーパーオキサイドジスムターゼ活性(Superoxide dismutase activity:SOD)の濃度を測定しました。


 追跡期間中に胃がんに罹った方(症例群)とそのまま健康で過ごした方(対照群)の間で比較し、その間に意味のある差が認められれば、胃がん発症に先立ってその物質の濃度が上昇(あるいは低下)していたことが示唆されます。

 (J Epidemiol 2005; 15 Suppl 2: S120-S125.に発表)


2)結果と考察

 女性の対照群においてsFas濃度が2.04 pg/mlであったのに対し、症例群では2.22 pg/mlと有意に高値を示していました(図)。男性においても症例群で高値の傾向を示していましたが、その差は統計学的には有意ではありませんでした。


 sFasはアポトーシス(プログラムされた細胞死)を抑制すると考えられており、sFasの上昇が、がん細胞の増殖抑制を阻害する(すなわち増殖を促進する)可能性が示唆されています。

 臨床的に明らかになる前の小さな胃がんの存在によってsFasが上昇していた可能性も完全には否定できませんが、今回の研究結果はsFasが発がんに関与する可能性を示唆していると考えられました。


 なお、その他に測定したIGF-I,IGF-II,IGFBP-3,TGFb1,SODのいずれの項目も追跡期間中に胃がんを発症した症例群と対照群の間に差は認められませんでした。


3)がん予防に活かせる知見

 本研究結果は血中sFas濃度が高い方では、胃がんを将来発症するリスクが高いかもしれないことを示しています。


 しかし、今回の検討ではsFas濃度に影響を与え,かつ胃がん発症の原因になるような生活習慣や胃がん発生に大きな関与を持つピロリ菌等様々な影響を考慮していないため、これらに独立してsFas濃度が胃がん発症の予測因子となるかどうかについてはさらなる研究が必要と思われます。


 また健康な方のsFas濃度を測定することが胃がん予防にいつながる検査として本当に有用かどうかについても直接検討していません。応用のためには、今後も研究が必要であると考えられます。

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