ハウスダスト中フタル酸エステルと住環境との関連

背景と目的

近年、可塑剤としてプラスチック製品、パーソナルケア製品、塗料や接着剤などに汎用されているフタル酸エステルによる生殖や発達、アレルギーへの影響が問題となっている。フタル酸エステルの曝露経路は、その大部分が食事を介したものであるが、環境中では、空気やダスト中に存在し、吸入・皮膚接触などによる室内での恒常的な曝露が注目されている。これまでに、ハウスダスト中フタル酸エステル濃度は報告されているが、住環境との関連を検討した研究はほとんどない。本研究では、ハウスダスト中フタル酸エステル濃度を測定し、住居の特徴との関連を明らかにすることを目的とする。

方法

2009年、2010年の9月と10月に、調査に協力が得られた札幌市内の住居128件に訪問調査を行った。ハンディクリーナーを用いて居間の床全面(以後、床ダスト)と床より上の棚や家具の表面(以後、棚ダスト)の2カ所に分けてハウスダストを採取し、フタル酸エステル7化合物の濃度をGC/MSで測定した。住居の構造、築年数、 戸建か集合住宅、改築の有無、世帯収入、結露の有無などの湿度環境5項目については調査票によって評価し、床材、壁材、天井材の種類、掃除頻度などは調査員による観察や住人への聞き取りによって評価した。また、居間の床材、壁材、天井材の種類がポリ塩化ビニル製(polyvinyl chloride: PVC)であるか否かを評価し0-3でスコア化した (PVCスコア)。統計解析は、SPSS19を用いてSpearmanの相関、Wilcoxon検定、Mann-Whitney U検定、Kruskal-Wallis検定、Jonckheere-Terpstra検定を行い、P <0.05および、多重比較の際はP <0.017を統計学的有意とした。

結果

ダスト中のフタル酸エステル濃度は床ダストよりも棚ダストで有意に高く、棚ダスト中di-2-ethylhexyl phthalate (DEHP)は海外の先行研究(台湾、デンマーク、ブルガリア、スウェーデン)の値よりも高値であった。床ダスト中では、集積材のフローリングを使用している住居でdi-isobutyl phthalate (DiBP) が、PVC の床材でDEHPがそれぞれ有意に高濃度であった。またこれらは、世帯収入、湿度環境で調整後も有意であった。一方、棚ダスト中では、PVCの壁紙を使用している住居でDEHPとdi-isononyl phthalate (DiNP) がPVC以外の壁材より有意に高く、PVCスコアはDEHPおよびDiNP濃度と有意に正の相関を示したが、世帯収入、湿度環境で調整後は有意差がなくなった。

考察とまとめ

本研究は、ハウスダストの採取場所を高所と低所の2カ所に分けて住居の特徴との関連を明らかにした初めての研究である。床ダスト中のDiBPとDEHPはそれぞれ集積フローリングとPVC床材が発生源になっていることを示唆した。DiBPはDEHP同様、抗アンドロゲン作用やアレルギーのアジュバント効果が報告されていることから、DEHPのみならず、DiBPが含まれる製品に対しても規制などの考慮が必要であろう。さらに、本研究のDEHP濃度は海外の研究と比較して高値を示しており、日本の住居ではDEHPの曝露に特に注意を払う必要があるだろう。同じ住居でもダストの採取場所によりフタル酸エステル濃度に有意に差があったことから、フタル酸エステルの曝露評価をダストを用いて行う際には、どこから採取したダストなのかということが非常に重要であるということが示された。

所在地

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