日本の教員における長時間労働と精神健康度低下について

背景

長時間労働は先行研究から健康を害する可能性が示唆されており、先行のシステマティックレビューからは特に冠動脈疾患、不安、抑うつ状態、睡眠の問題との関連が示されている。日本では教員の長時間労働が良く知られており、2013年にOECD加盟国で行われたTALIS (The Teaching and Learning International Survey)でも日本の学校教員は参加34か国のうち最も長時間働いていることが明らかにされた。ところで日本の公立学校教員の精神障害による休職者数は増加し、2002年に2687名、さらに2012年には4960名となっている。しかし、学校教員を対象とした長時間労働と精神障害に関する研究は現在までにない。本研究の目的は学校教員の長時間労働と精神健康度低下の関連を検討することである

方法

本研究は横断研究で、2013年7月中旬から9月にかけて、札幌市を除く北海道全域の公立中学校教諭1245名を対象として行われた。北海道教育委員会の協力のもと2013年7月中旬より、配布対象となった教諭が勤務する公立中学校から自記式質問票が配られ、参加に同意した対象者は匿名で労働時間を含めた基本的属性及びGHQ-28精神健康調査票などの質問票に回答した。労働時間は自宅に持ち帰った仕事を含み、生徒の夏休み前の一か月の平均週当たり労働時間を尋ねた。精神健康度の低下はGHQ-28総得点が6点以上とした。回答後は対象教員自らがポストへ投函し、2013年9月末まで回収した。本研究は匿名かつ自らの意思に基づく回答であり、質問票に回答しそれらを研究者らへ送付することで本研究に同意したものとみなした。統計学的解析には多変量ロジスティック回帰分析を用いて男女ごとの長時間労働と精神健康度低下の関連を解析し、オッズ比と95%信頼区間(95%CI)を算出した。なお本研究は、北海道大学大学院医学研究科医の倫理委員会の承認を得て実施した。

結果

計558名(回収率44.8%)の教員から回答を得ることができた。欠損値のあるものなどを除き、最終的に522名(男性337名、女性185名)の教諭が解析対象となった。精神健康度の低下は男性47.8%、女性57.8%に認めた。また男性で84.6%、女性で90.8%の教員が長時間労働(週当たり40時間を超える労働時間)を行っていた。男性では週当たり40時間以内の労働時間のものに比較して、60時間を超えるもので精神健康度低下のリスクが有意に高かった(調整オッズ比4.71、[95%CI 2.04–11.56])。女性では長時間労働と精神健康度低下の関連では有意な結果を認めなかった。

考察・結論

男性教諭では長時間労働と精神健康度低下に有意な関連を認めた。一方で女性教諭では有意な関連を認めなかった。女性は仕事だけでなく家事の負担も大きいこと、女性にとって長時間労働は一般的ではなく男性よりストレスフルであることが関与していると考えられ、これらが女性教諭で認められた労働時間に関わらず精神健康度が低下しているものの割合が高い結果につながり、労働時間の違いによる差を認めなかったと考えられた。本研究のデザインからは因果関係は明らかにすることはできない。大規模な前向きコホート研究などの更なる研究が必要と考えられた。

謝辞

本研究にご協力いただいた全ての教員の皆様、北海道の公立中学校、北海道教育委員会の皆様に深く感謝申し上げます。