Self-reported tobacco smoke exposure and plasma cotinine levels during pregnancy-a validation study in Northern Japan.

背景および目的

妊娠中の喫煙曝露は母児ともに有害な健康影響を及ぼします。曝露評価には,質問紙調査法や尿,血液,唾液,毛髪など生体試料のコチニン濃度を測定するなどいろいろな方法があります。質問紙調査から喫煙状況を評価する場合は,喫煙者は喫煙を正確に報告しない,また,非喫煙者では受動喫煙を正確に思い出せないなどの限界があります。そのため,質問紙調査による喫煙や受動喫煙の妥当性を評価するためにバイオマーカーを用いる方法が導入されました。コチニンはニコチンの代表的な中間代謝産物で,たばこ煙曝露のバイオマーカーとして用いられています。生物学的半減期は約17時間と割合長く,ニコチンよりも感度と特異度が高いとされています。喫煙ではコチニン測定と質問紙調査の妥当性は高く,受動喫煙では妥当性は低くなると報告されていますが,質問紙調査による妊婦の喫煙と臍帯血中コチニン濃度に直線性が認められたという報告もあり,質問紙調査とコチニン測定による喫煙曝露指標の関連はまだ結果が一致していません。さらに,喫煙と非喫煙,受動喫煙と非受動喫煙のカットオフ値も確立されていません。

本研究では,日本人妊婦を対象として,質問紙調査による喫煙と血漿中コニチン濃度との関連を検討し,喫煙および受動喫煙のカットオフ値を設定することを目的としました。 

方法

2003年4月から2007年12月に妊娠初期の妊婦検診を受診,同意を得て「環境と子どもの健康に関する北海道スタディ」に登録した妊婦9,000名のうち,妊娠初期と出産後4ヵ月の質問紙調査に回答し,母体血漿中コチニン測定結果がある5,128名を解析対象としました。コチニン測定のために妊娠後期に採血した母体血漿25μLを高感度ELISA法(検出限界値0.12ng/mL)で測定しました。検出限界値以下の場合には,検出限界値の半値(0.06ng/mL)を代入しました。質問紙調査による喫煙状況とコチニン濃度との関連をスピアマンの順位相関係数で,また,コチニン濃度の感度と特異度をROC曲線から算出し,喫煙と非喫煙,受動喫煙と非受動喫煙のカットオフ値を求めました。最後に,質問紙調査から分類した喫煙・受動喫煙とコチニン濃度から分類した喫煙・受動喫煙を陽性反応的中度,陰性反応的中度,陽性尤度比,陰性尤度比およびκ係数で評価しました。

結果

質問紙調査による喫煙者は650名,禁煙者は728名,非喫煙者3,750名で,喫煙率は13%でした。非喫煙者のコチニン濃度は0.06〜191.15ng/mL(中央値0.30ng/mL),禁煙者は0.06〜202.43ng/mL(中央値0.69ng/mL),喫煙者は0.06〜453.95ng/mL(中央値94.4ng/mL)で,質問紙調査とコチニン測定との順位相関係数は0.54(p<0.01)でした。ROC曲線による喫煙と非喫煙のコチニン濃度のカットオフ値は11.48ng/mL(特異度97%,感度81%,κ係数0.79),非喫煙者の受動喫煙と非受動喫煙のカットオフ値は0.21ng/mL(特異度63%,感度 68%,κ係数0.31)でした。コチニン濃度による喫煙者(>11.48ng/mL)は14%(709名),非喫煙者(≦11.48 ng/mL)は86%(4,419名)でした。質問紙調査で自己申告していなかった喫煙者は2.6%(134名)でした。陽性反応的中度は83%,陰性反応的中度は97%,陽性尤度比は27で質問紙調査とコチニン濃度の一致性は高くなりました(表1)。

非喫煙者の受動喫煙は63%で,平均血漿コチニン濃度は0.9ng/mLでした。コチニン濃度で分類した受動喫煙2,690名のうち,質問紙調査でも受動喫煙であったのは1,837名(68%)でした。全対象者5,128名では853名 (16.6%)が質問紙調査で受動喫煙ではありませんでしたが,コチニン濃度から受動喫煙と分類されました。陽性反応的中度は76%で高めでしたが,陽性尤度比は1.8とはるかに低かったことから,質問紙調査による受動喫煙曝露評価の信頼性は低いことが示唆されました(表2)。図1は,全対象者5,128名のコチニン濃度の分布を示しています。受動喫煙に係わる要因とコチニン濃度との関係を検討すると,a)配偶者の1日当たりの喫煙本数,b)同居する喫煙者数,c)1週間当たりの受動喫煙頻度が有意に関連しました(p<0.01) (図2)。

表1. 質問紙調査による喫煙と血漿中コチニン濃度による喫煙の比較sasaki001.png

表2. 質問紙調査による受動喫煙と血漿中コチニン濃度による受動喫煙の比較
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図1.  血漿中コチニン濃度の分布曲線
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図2.  血漿中コチニン濃度と受動喫煙に係わる要因との関連
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考察および結論

喫煙と非喫煙のカットオフ値は今まで報告されていませんでしたが,本研究から11.48ng/mLであることが示され,これは先行研究で報告されている10-20ng/mLの範囲内でした。一方,非喫煙者の受動喫煙のカットオフ値は0.21ng/mLで,他の研究と比べて低い値でした。妊娠16-40週では生物学的半減期が約8時間と短くなることやコチニン代謝速度の個体差が関与していることが一因として考えられました。また,ニコチン含有の食品(トマト,いも,なす,カリフラワー,緑茶,紅茶,コーヒーなど)の摂取により,受動喫煙に誤分類される可能性も示唆されています。本研究では,血中コチニン値に関与する食生活については質問していませんので,今後さらに検討する必要があります。

日本人男性の喫煙率は先進国では高い方ですが,禁煙対策により職場や公共の場所では徐々に低下してきています。本研究では,妊娠中の受動喫煙は家庭のみを調査しましたが,配偶者の1日当たりの喫煙本数,同居する喫煙者数,1週間当たりの曝露頻度とコチニン濃度には有意な関連が認められたことから,喫煙者と同居する非喫煙妊婦には,受動喫煙の可能性が高い場所と考えられます。先行研究でも,喫煙する配偶者や同居者と受動喫煙は有意に関連することや,非喫煙者の血漿中コチニン濃度は職場よりも家庭での曝露の方が高いことが報告されています。

本研究では,コチニン測定による受動喫煙のほとんどが質問紙調査では非受動喫煙に誤分類されていたことから,受動喫煙曝露評価にはコチニン濃度などのバイオマーカーを用いて質問紙調査の妥当性を確定する必要性が示されました。