有機フッ素化合物の胎児期曝露と乳幼児のアレルギー症状および感染症との関連

背景と目的

 PFOSやPFOAなどの有機フッ素化合物は、撥水剤として衣類や建材、フッ素系の表面コーティング剤など幅広い分野で使用されている環境化学物質です。人体への主な曝露経路には、飲料水、食品、食品パッケージ、ハウスダストがいわれており、分解されにくく、動物やヒトの生体内で蓄積するため、健康影響が懸念されています。近年、世界的に規制の動向にあり、日本でも2010年にPFOSが化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律の第一種特定化学物質に指定されました。

 先行研究では、PFOS・PFOAは胎盤を通過して母体から胎児へ移行することが明らかとなり、当教室では妊婦の濃度が高いほど出生時体重が低いという結果が得られています。また、有機フッ素化合物が免疫系に与える影響として、動物実験では免疫抑制や抗体産生抑制が認められ、アメリカの疫学研究では高濃度のPFOA曝露によって女性のIgE濃度が下がるという結果が報告されています。一方で、デンマークの母児を対象とした前向きコホート研究では、妊婦の一般生活環境における低濃度の有機フッ素化合物の曝露と児の感染症との関連は認められなかったと報告されています。しかし、世界的にもまだデータが乏しく、日本では妊婦の有機フッ素化合物の曝露が児のIgEやアレルギー疾患・感染症へ及ぼす影響を検討した研究はこれまでにありません。

 そこで本研究では、前向きコホート研究で、一般生活環境における低濃度のPFOS・PFOA胎児期曝露が、臍帯血IgEおよび児の18ヶ月までのアレルギー症状・感染症発症へどのような影響を及ぼすのかを検討しました。

 対象と方法

 対象者は、2002年7月〜2005年10月に札幌市内の1産科病院で参加同意の得られた妊婦514名です。参加時に、自記式の質問票で妊婦と配偶者の既往歴、教育歴、世帯収入、飲酒、喫煙状況、食生活などを調査し、分娩時には、医療診療録から母の出産経歴や、分娩時の所見、出生時体重・身長・頭囲・胸囲など関する情報を収集しました。さらに生後18ヶ月時には自記式の質問票を送付し、児のアレルギー症状や感染症をはじめとする疾患の既往歴・現病歴、母乳栄養状況、両親の喫煙状況、集団保育歴、児の食品摂取などの情報を収集しました。

 PFOS・PFOA濃度の測定のために、妊娠中期〜後期に妊婦の採血を行い、オンライン固相抽出-高速液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析法(LC/MS/MS法)で母体血中のPFOS・PFOA濃度を測定しました。また分娩時に臍帯血を採取し、酵素免疫測定法(ELISA法)で臍帯血中の総IgE濃度を測定しました。最終的な解析対象者は、PFOS・PFOA濃度とIgE濃度との関連については231名、PFOS・PFOA濃度と児の18ヶ月までのアレルギー症状・感染症発症との関連については343名でした。

結果と考察

 母体血中のPFOS濃度は5.2 ng/mL(中央値)、PFOA濃度は1.3 ng/mL(中央値)で、諸外国や日本の他地域と比較してPFOS・PFOAともに低い値でした。臍帯血中のIgE濃度は0.21 IU/mL(中央値)、児の出生から18ヶ月までのアレルギー症状および感染症の発症は、食物アレルギー57名(16.6%)、アトピー性皮膚炎37名(10.8%)、気管支喘息33名(9.6%)、中耳炎61名(17.8%)でした。これらは、日本で行われた疫学研究と比較してほぼ同じ結果でした。

 PFOS・PFOA濃度は、母の年齢が高いほどが有意に低く、出産経歴がある群は出産経歴がない群と比較して有意に低かったです。さらに、貧血のために分娩後に採血を行った群は、妊娠中に採血をした群と比較して有意に低かったです。これらの結果より、母体から児へ移行することが本研究でも明らかとなりました。

 臍帯血IgE濃度への影響は、母体血中PFOA濃度とIgE濃度との間に曲線関係が認められ、女児においてPFOA濃度が高いとIgE濃度が有意に低い結果となりました(図1)。PFOSとの関連は認められず、男児ではPFOS・PFOAともに関連を示しませんでした。したがって、女児のみで関連が認められたことからPFOAの胎児期曝露の影響は性差がある可能性が示唆されました。

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図1. 女児における母体血中PFOA濃度と臍帯血IgE濃度との関連
母の年齢、アレルギー歴、出産経歴、出生季節、自宅の幹線道路からの距離、採血時期で調整

 しかし、児の18ヶ月までの食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、喘鳴、中耳炎へ及ぼす影響を解析した結果、母体血中PFOS・PFOA濃度との有意な関連は認められませんでした(表1)。

 

表1. 母体血中PFOS, PFOA濃度と児の18ヶ月までのアレルギー症状・感染症との関連
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結論と今後の展開

 以上の結果より、一般生活環境における低濃度のPFOAの胎児期曝露は、出生時の臍帯血IgEへの負の影響を及ぼすものの、児の生後18ヶ月までのアレルギー症状・感染症発症には影響を及ぼさないことが示唆されました。しかしながら、本研究の限界として対象者の数が少なかったことや、18ヶ月ではアレルギー症状の診断がまだ難しく、疾患発症の正確な評価ができなかった可能性が挙げられました。さらに、有機フッ素化合物はPFOS・PFOAのみならずPFNA・PFHxS・PFUdA・PFDAなどの構造が似た化合物が多く存在します。これらの化合物もPFOS・PFOAと同じように人体への健康影響が懸念されているため、疫学研究で評価する必要があります。今後は、より対象者数が多い集団で、学童期になるまで長期的に追跡し、PFOS・PFOA・PFNA・PFHxS・PFUdA・PFDAなどの有機フッ素化合物の胎児期曝露による児の健康影響を評価していく予定です。

共同研究機関

北海道大学環境健康科学研究教育センター、旭川医科大学医学部地域保健疫学分野、北海道大学大学院医学研究科臨床統計学分野、星薬科大学薬学部薬品分析化学教室