生活習慣と膵がん死亡との関係

林櫻松


 膵臓はインスリンや消化酵素を分泌する重要な臓器です。そこにできる膵がんは、発見時にはかなり進行しているものが多いこと、また治療が困難なものが多いことが知られており、5年生存率は約10%と非常に予後が悪いがんです。日本では近年、膵がんは増加し続けていますが、発生原因はほとんどわかっていません。


 そこで、我々は40-79歳の110,792人を対象とした大規模前向きコホート研究のデータ(JACC Study)を用いて、生活習慣と膵がん死亡との関係を調べました。そして、喫煙、飲酒、コーヒーと膵がん死亡リスクとの関係について、専門誌(Cancer Causes Control 13巻 249-254ページ 2002とInternational Journal of Cancer 99巻 742-746ページ 2002年)に発表しましたのでその概要をお知らせします。


非喫煙者に対する喫煙者の膵がんの死亡リスクは1.6倍

 1988-90年にアンケート調査により生活習慣を調べ、1997年まで平均8.1年追跡をしたところ、対象者のうち225人が膵がんで死亡していました。図1は、非喫煙者と比べて、喫煙者の膵がん死亡リスクが何倍であるかを示しています。非喫煙者と比較した喫煙者の膵がん死亡リスクは男で1.6倍、女で1.7倍となり、統計学的には有意ではないもののリスク上昇が認められました。また男性では、1日40本以上タバコを吸う人は吸わない人と比べ約3倍とリスクが高くなっています。


飲酒、コーヒーは膵がんと関係がない

 飲酒習慣やコーヒー摂取は日常の生活習慣であり、膵がんとの関係は多くの研究で調べられています。我々の研究では、1日に日本酒を約3合飲む人はまったく飲まない人と比べ、膵がん死亡リスクは0.98倍となりました。これは、飲酒をすることと膵がん死亡とは関係がないことを意味しています。


 コーヒーについても、飲むことで膵がんになりやすくなるという因果関係を支持する結果は得られませんでした。しかし、1日4杯以上飲む人では、飲まない人に比べ膵がん死亡リスクが有意に上がり、男性では3.1倍膵がんで死亡しやすいことがわかりました(図2)。大量のコーヒー飲用は膵がんリスクを上げるかもしれない言えそうです。研究開始当時に比べ現在はコーヒーを飲む人が増えており、今後さらに研究が必要です。


糖尿病歴が長いと膵がんリスクが上がる

 膵臓はインスリンという糖尿病と関係のあるホルモンを分泌する臓器であり、糖尿病の人には他の人に比べ膵がんが多いことが知られています。そのため、糖尿病があることで膵がんになりやすくなるのか、それとも膵がんの合併症として糖尿病が出てくるのか、という議論が長く続いています。


 日本膵臓学会が行った膵がん患者の全国登録によれば、膵がん患者が受診をした理由としては、腹痛などの自覚症状が最も多く、糖尿病の悪化をきっかけとした人は1.5%と非常に少ないことがわかっています。しかし、今までにおこなわれた疫学研究では長期にわたる糖尿病が膵がんリスクを上げることが報告されています。


 今回の我々の研究では、図3のように糖尿病歴がない人と比べ、糖尿病歴がある人の膵がん死亡リスクは男性で2.1倍、女性で1.5倍とリスクの上昇が認められました(図3)。糖尿病の基礎病態である耐糖能障害や高インスリン血症が膵がんの発生に関わっていると考えられます。糖尿病と膵がんの因果関係については今後さらに詳しい研究が必要です。


 以上のことから、喫煙が膵がんリスクを上げることが明らかになりました。非喫煙者に対する喫煙者の膵がんリスクは約2倍と考えられます。我々の試算によれば、タバコを止めることで日本人の男性の膵がん死亡のうち22%を防ぐことができます。


 喫煙以外の生活習慣では、飲酒やコーヒー飲用は膵がんリスクと関係がないようですが、大量にとった場合にはリスクが上昇する可能があります。長期の糖尿病罹患は膵がんリスクを上げることが多くの研究で示されています。膵がんは日常の生活習慣の改善により部分的ではありますが、予防できるがんであることが明らかになりつつあります。

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