くも膜下出血死亡の危険因子について

山田茂樹


 くも膜下出血は、脳卒中の中で最も治療困難な病気であり、現在でも致命率およそ50%と非常に高いため、その危険因子について理解し、予防に努めることが重要と考えられています。


 JACC Studyでは、1988~90年に全国45地区で、40歳から79歳までの約11万人の方々にご協力をいただき、病歴や生活習慣についてアンケートし、約10年間追跡調査を行いました。この結果を基にくも膜下出血が原因で死亡する危険因子について研究し、専門誌に発表しました(Stroke 34巻 2781-2787ページ 2003年)。その概要を報告します。


くも膜下出血は女性に多い

 従来からくも膜下出血は女性に多いことが知られていますが、そのメカニズムについてはよく分かっていないというのが現状です。 JACC Studyでは、くも膜下出血による年間死亡率は10万人当たり男性は19.5人、女性は24.6人と、全体で見るとやはり女性の死亡率が1.26倍男性より高いという結果でした。しかし、図に示しますように、くも膜下出血死亡者は、40代、50代では男性の方が多く、60代、70代で女性の方が多いことが分かります。この結果と過去の他の研究結果から、全般的に女性の方がくも膜下出血のリスクは高いけれども、女性ホルモンはくも膜下出血の罹患を抑える働きをしている可能性がある(そのため、閉経前では女性の死亡率が男性より低く、閉経後では女性の死亡率が高くなる)ことが推測されました。


輸血歴はくも膜下出血死亡のリスクを上げる?

 今回の結果から、アンケート時に輸血歴のあった人は、輸血歴のなかった人と比較して、特に男性では4.20倍もくも膜下出血死亡リスクが高いことが、世界で初めて証明されました。このメカニズムとしては、輸血を介した感染説、輸血による免疫力低下説などが考えられますが、今後、他の研究でさらに検証される必要があると考えています。


高血圧症とくも膜下出血死亡

 高血圧症は最もよく知られたくも膜下出血の危険因子の一つです。収縮期血圧が140mmHg以上もしくは拡張期血圧が90mmHg以上を高血圧症と定義したところ、高血圧症の人は正常血圧(収縮期血圧140mmHg未満かつ拡張期血圧90mmHg未満)の人と比較して、男性で2.97倍、女性で2.70倍くも膜下出血死亡のリスクが高いことが分かりました。血圧を十分下げておくことは、くも膜下出血の予防に重要であると考えられます。


喫煙とくも膜下出血死亡

 喫煙もまた最もよく知られたくも膜下出血の危険因子の一つです。喫煙者は非喫煙者と比較して、男性で3.10倍、女性で2.26倍リスクが高くなりました。喫煙量については、一日の喫煙量が10本未満でも、20本以上吸っている人と同程度のリスクがあるという結果でした。アンケート時点ですでに喫煙をやめていると答えた方は、非喫煙者と同等にリスクが低下していることが確認できました。この結果から、たばこを吸わないことはもちろん重要ですが、吸っている人でも禁煙することでくも膜下出血の予防効果が期待できると考えられます。


脳卒中の家族歴とくも膜下出血死亡

 くも膜下出血の発症には遺伝的な要因が含まれていることが既に知られています。 JACC Studyでも、親や兄弟姉妹が脳卒中に罹ったことのある人は、家族歴のない人と比較して、男性で2.00倍、女性は2.08倍くも膜下出血死亡のリスクが高いという結果でした。


痩せ体型とくも膜下出血死亡

 体重÷(身長×身長)=BMIが18.5未満であれば痩せ体型、18.5以上25.0未満であれば標準体型、 25.0以上であれば肥満体型と定義したところ、特に男性で痩せ体型の人は標準体型の人と比較して、2.72倍リスクが高くなりました。何故、痩せ体型がくも膜下出血と関係あるのかはこれまでのところ分かっていませんが、既に他のいくつかの研究グループでも同様の結果が報告されています。


ストレスとくも膜下出血死亡

 特に女性において、日常生活におけるストレスがくも膜下出血死亡と関係あることが、このJACC Studyで初めて証明されました。過去の実験的研究データーで、精神的なストレスによって血管の内皮が傷つく可能性が指摘されていますので、くも膜下出血の原因して十分に関係あるのではないかと考えています。


飲酒とくも膜下出血死亡

 飲酒とくも膜下出血については、これまで多くの研究グループから報告されており、多量飲酒がくも膜下出血の罹患や死亡と関係ある可能性があると考えられています。JACC Studyでは、日本酒換算で一日平均二合以上の多量飲酒者は非飲酒者と比較して、男性で2.08倍の死亡リスクが高くなりましたが、高血圧症・喫煙・脳卒中の家族歴の危険因子を考慮するとリスクは認められませんでした。


塩分とくも膜下出血死亡

 塩分の高い食事を好む人は好まない人と比較して、男性で3.01倍、女性で2.34倍くも膜下出血死亡リスクが高くなりましたが、高血圧症・喫煙・脳卒中の家族歴の危険因子を考慮するとリスクは認められなくなりました。塩分の高い食習慣が高血圧症を引き起こすことは、過去の疫学的研究や実験的研究で既に証明されていますが、 JACC Studyでも塩分の高い食事を好む人は好まない人よりも、アンケート時点ですでに血圧が高い傾向にありました。これらのことから、塩分の高い食習慣は、高血圧症を介してくも膜下出血死亡のリスクとなると考えています。


 JACC Studyでは、アンケート調査から以上のくも膜下出血死亡の危険因子を同定することができました。高血圧症の方は、塩分を控えるまたは血圧を下げる薬を飲み十分に正常血圧範囲内に血圧をコントロールをすることによって、くも膜下出血の予防効果が得られると考えられます。

 同様に、現在喫煙を続けている方も、禁煙を長期間続けることが、予防につながると考えられます。また、酒の飲み過ぎやストレスを溜めることも脳血管障害を引き起こす可能性があるため、できるだけ避けた方が良いでしょう。


 肥満体型は心筋梗塞や脳梗塞など閉塞性血管障害の原因となることは既によく知られていますが、痩せ体型もくも膜下出血の原因となる可能性があり、標準体型となるように心掛けた方が良いと考えられます。


 脳卒中の家族歴のある方や1990年以前に輸血を受けたことのある方は、脳ドックなど予防的診断を受けることで、くも膜下出血罹患前に原因となる脳動脈瘤を発見し、治療方法を選択することができる可能性があります。ただし、輸血とくも膜下出血との関係を明らかにするためには、今後さらに他の疫学的研究や生物学的なメカニズムに迫る実験的研究などが必要と思われます。

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